2018年6月25日、母校でもある、日光市立今市小学校の全校集会で、講演をさせていただきましたので、こちらに再録します。

 

「道徳集会」「郷土について知る」というようなお題でしたが、やや迂回したはなしになっているかもしれません。まあ、それはそれとして、それではどうぞ。

 

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みなさんこんにちは。きょうは呼んでいただいてありがとうございます。

 

日光みそのたまり漬・上澤梅太郎商店の上澤佑基といいます。

 

きょうは、ぼくが昔働いていた、中国の会社で気づいたことや、日本に帰ってきてからのことを話したいと思います。

 

まず、自己紹介をします。

 

ぼくは1985年12月12日に生まれました。ヨゼフ幼稚園から今市小学校にはいって、今小を卒業したのが、ちょうど20年前です。

 

今小の時には、野球をやっていました。あまりうまくなかったけど、いちおう、レイダースのキャプテンでした。

 

今小を卒業してから、東京の中学校にいきました。それから大学をでるまでの13年、東京に住んでいました。

 

大学では、100年くらい前の日本人がどういうことを考えていたのかについて、勉強していました。

 

で、そういう勉強をしていたんですが、やっぱり、自分のうちに帰ってくる前に、漬物のことをもっとよく分かりたいと思って、うちとは別の、大きな漬物会社に入りました。いわゆる「修業」というやつです。中国に工場があって、ぼくはそこに行って仕事をしていました。

 

日本から、その工場に行くのに2日かかる、とても遠いところでした。

 

中国の工場では、らっきょうの漬物を作っていました。そして、その漬物は、日本の大きなスーパーに売っていました。みなさんも、きっとみたことがあるとおもいます。

 

これが、中国のらっきょう畑です。収穫をしているところなので、袋がたくさんおいてあります。すごく広いでしょう?
むこうの山まで、全部畑です。

 

漬物を作るのにいちばん大事なことって何だと思いますか?

 

それは、おいしい野菜を作ることです。というわけで、ぼくの仕事は、畑に行って、農家さんにおいしい野菜を作ってもらうようにお願いすることでした。

 

畑には、動物がたくさんいました。なぜだと思いますか? 機械がないから、動物に棒を引っ張らせて、それで畑を耕しているんです。畑は牛で、田んぼは水牛で耕します。

 

野菜は1年に1回しかとれません。これを野菜の「旬」といいます。旬の時期に採れた野菜を塩で漬けておいて、1年中食べられるようにした食べ物が「漬物」です。らっきょうの旬はまさに今、夏のはじめのころです。この頃になると、工場にたくさんのらっきょうが集まってきます。

 

車を持っている人もいるし、もっていない人は、リアカーで運んできます。

 

らっきょうにはまだ泥んこが沢山ついているので、水で洗います。

 

次に、大きなプールにらっきょうを詰め込んで、平らにならします。

 

そしたら、らっきょうに塩をかけます。これで、1年間、野菜が腐らないでおいておけるんですね。塩をたくさんかけてしょっぱいので、食べるまえに水で洗って塩を抜いて、そのあと甘いおつゆに漬け直します。

 

ぼくがいたところは本当に田舎で、住んでいた宿舎には冷蔵庫がないし、近くにスーパーもコンビニもありません。お肉やお魚は、歩いて1時間かかる場所にある市場に、係りの人が毎日買い出しに行っていました。

 

ガスもないので、料理は炭火でします。

 

電気はありましたが、毎週停電がありました。

 

ごはんは、働いている人みんなで一緒に食べます。僕以外全員中国人です。中国では、みんなでおかずを分け合って食べます。炭火しかない台所で、たくさんの料理を全部つくっているんです。すごいと思いませんか?

 

ぼくは、中国で生活していて、こんなことを思っていました。

 

それは、「あたりまえ が おもしろい」。

 

あたりまえの、なんでもないことのなかに、おもしろさがあるんです。

 

たとえば、空芯菜という夏野菜があります。この菜っ葉、茎と葉っぱをいちいち手でむしって分別して、別々の料理に、ぜんぜんちがう材料として使うんです。中国の家庭料理に、こういう細やかさがあるということを、申し訳ないことに、実はあんまり知りませんでしたし、むしろイメージとぜんぜんちがった。

 

中国の人にとっては当たり前のことかもしれませんが、ぼくにとっては、すごく繊細で面白い工夫があるんだなと思った。

 

冷蔵庫もないようなところなんです。それでも、当たり前の食材を、とても丁寧に料理して、毎日おいしく食べている。人の暮らしにとって、こういうことが大事なんだな、と思ったんです。

 

じゃあ、今市に帰ってきて、たまり漬だったり、味噌や醤油を作ってお客さんに買ってもらう、という仕事をどういう風にするか、と考えたとき、やっぱり大事なのは「当たり前の面白さを守る」ということだと思ったんですね。

 

これ、ぼくの朝ごはんです。ごはんはだいたい自分でつくります。

 

ごはんと味噌汁と漬物に、おかずがふたつみっつ、というごはんのの食べ方を「一汁三菜」と言います。これ、日本の「あたりまえ」のごはんです。今、こういうごはんを食べるひとが減ってきています。

 

でも、すごく面白いと思うんです。だって、ソーセージなんか、和食の素材じゃないのに、不思議とごはんや味噌汁に合うでしょ?
いろんな国の食べ物をいっしょにたべても、ちゃんと美味しい。これが、日本のごはんのおもしろさだと思うんです。

 

ごはんと味噌汁と漬物っていう組み合わせは、ハッキリ言って、ごちそうじゃありません。いつも当たり前にたべるもので、もしかしたら、沢山の人が飽きているかもしれません。でも、こういうあたりまえな食べ方のなかに、ずっとずっとうけつがれてきた、大事な工夫があるんです。

 

「あたりまえのことのなかにある面白さ」を見つけることを練習するには、ぜんぜん知らないところに行くのがいいと思います。

 

ぼくも、中国に行ってはじめて、日本のごはんの面白さがわかってきました。みなさんも、これから、どんどん外国に行ってみてください。もしかしたら、外国がみんなのふるさとになるかもしれないし、はんたいに、今市に帰ってきたくなるかもしれない。みなさんそれぞれの楽しさをさがしてみてください。そして、たまには、おいしいごはんと味噌汁と漬物でほっと一息ついてみてください。

 

今日はありがとうございました。