自由への武器

僕は1997年5月17日に行われた自由学園の 「第一回卒業生講座」 において 「自由への武器」という発表をしました。この講座の内容を文章化したものが、同年6月25日に発行された 「自由人・第79号」に掲載されています。原文からこちらへ引き写す際、一部の語句に訂正を加えました。またブラウザで読みやすいよう、改行位置を変えています。


自由への武器 自由学園35回生 上澤卓哉

1970年代初期、「たった一台のタイプライターが革命を起こすこともある」 という、オリヴェッティのラジオCMがありました。

権力者は決まって言論と教育に攻撃の矛を向け、革命軍がクーデターに成功すると、真っ先にラジオ局を占拠し、旧体制の知識人を放逐します。誰しもが、武器としての情報と知性の恐ろしさを知っているあらわれでしょう。

私の究極の目標は、自由人になることです。そしてその手段は、どうやら情報の受け渡しにありそうです。その受け渡しも、革命的な手段による必要があるでしょう。

武器はもちろん、個人の個人による個人のためのパーソナル ・コンピュータ。ハードは1人1台のモーバイルです。どういうわけか、1人1台という体制は長らく世の中から認められませんでした。これではPC(パーソナル ・ コンピュータ)とは呼べません。パーソナルのPが欠けています。

パーソナル ・ コンピュータを使い回すには、ハードの他に、最低でもソフトと教育が必要です。

私は、デイタをストックして情報を引き出したり、それを視覚化するためのマイツールと、ニフティにアクセスするためのニフタームを主に使用しています。

マイツールとは何か? これを実際に使っていない人に説明するのは、とても困難ですが、抽象的ながら箇条書きにすれば、以下の性質を持つ強力無比なデイタベイス ・ ソフトということになります。

* 使う者の実力によって、それぞれのレヴェルで使いこなせる市民性。
* コマンドによって、コンピュータと相互会話をしながら使える簡便性。
* 異なるアプリケイション間でも、デイタの受け渡しが可能な汎用性。

パーソナル ・ コンピュータといえば、ワードプロセッサと表計算のみを思い浮かべ、強力なデイタベイスとしてのそれに思いが至らないのは、洋の東西を問わないのでしょうか。

ニフタームを使う理由は、下に述べるような 「多対多」 の情報交換を可能にするためです。1対1の通信形態は、それほどのパワーを生みません。

●革命的なコミュニケイションとは?

1. 一方通行 → 1対1 → 多対多

情報は、多対多の双方向性を持ち合わせるものが最上でしょう。トップダウンのみの一方通行では有効な情報を高い確率で生かすことは不可能ですし、声の小さな智者の意見は埋没します。

2. 階層型情報 → 亀の子連結型情報

ピラミッド型の階層があるとして、これを横方向にスライスします。頂上の方は頂上の方どうしで交信し、底辺の方は底辺どうしで交信する。この場合には権力主義や秘密主義が横行し、組織の効率は極端に下落します。

全ての個人どうしが自由自在に相互通信を行い、しかもそのやり取りが全ての個人に認識されるような情報形態が実現されたらどうでしょう。ピラミッド型の組織は上から圧力をかけるまでもなく、平坦でフレキシブルな構造になるでしょう。人に優しい組織の典型です。

3. 地に足をつける コンピュータを操作するのは、人間の脳です。デイタベイスとしての、また通信機としてのパーソナル ・ コンピュータを使いこなせるか否かは、ひとえに使い手の技量にかかっています。

目に見えないイメイジを、どれだけ固定化して摘み取ることができるか。勝負はここにあると言っても過言ではありません。

「パーソナル ・ コンピュータがあっても、それを何に使うか解らない」 これは自分の現在位置を認識できていない、地に足が着いていないために出る言葉です。

●TTF 自由学園男子部の制帽には、TTF のマークがあります。Faith を中心として、Technique と Thought が手を結んでいます。双方の 「T」 を連結するものがFなのでしょうか。なにぶんにも勉強が足りず、私には分かりません。 ただし TTF が自由人になるための強力な武器であるという認識は、明瞭に持ち合わせています。

この TTF を用いて、前述の 「革命的コミュニケイション」 を考察したら、一体どうなるか?

Faith 「信仰」 ・ ・ ・ 「OS」
Thought 「思想」 ・ ・ ・ 「素直」
Technique 「技術」 ・ ・ ・ 「自主」

この三点を決して離れない三角形に組み上げ、その三角形にかかわる個人の間に密接な情報のWEBを張る。

真理は常に、簡潔な構造を採るものと確信します。


「自由人 第七十九号」 奥付
発行日 一九九七年六月二十五日
発行責任者 新保和貴 ・ 山神啓介
編集責任者 望月 勤
発行所 自由学園男子最高学部自由人編集部
〒二○三 東京都東久留米市学園町1-8
印刷所 三好印刷株式会社


自由への武器
1997.0605