グローバル言語の今後 by 郷田敬

チューリッヒ到着後すぐに送信しようと思いましたが、古いホテルのせいでなかなか接続がうまくいかず、一日かかってスイス変換プラグを入手してインターネットにやっとつなぐ事ができました。

PDNの皆さん、福田さん、男子部38回生・郷田です。

転勤前の超多忙な生活で暫くPDNへはご無沙汰していましたが、いまチューリッヒに向かう機上にて暇にまかせて溜まったメイルを読み、そして書いています。

少し前にハンガリーの名窯という題でだいぶPDNが盛り上がり、話も色々な方向に飛躍し、これぞメイル・リンクの面白さと楽しんで拝見していましたが、その時ひとつ面白いことを発見しましたので、流星の如く現れた論客の男子部16回生・福田さんに質問します。

福田さんは、アメリカ人の奥様のことを 「愚妻」と書いておられましたが、それは頭の中が日本語環境の時のみ使われる表現で、英語環境に切り替えられたとたんには "my lovely wife" となるのでしょうか。それとも奥様は日本語がとても堪能で 「愚妻」 という謙遜語をご理解されているのでしょうか。

先日、日本語のとても堪能なスイス人の同僚が東京にやって来て、お土産をくれる時に 「つまらないものです」と言って渡してくれました。小生は、すかさず "Thank you very much for such a boring gift" と言って二人で大笑いしました。

ここの所、PDNでも日本語の難しさの議論がでていて面白く読ませて貰いましたが、日本語の難しさは上記のようなところも多分にあるかと思います。

だいぶ前に、日本語の達者なアメリカ人を採用面接したことがありました。最初は英語で喋らせると、まさにアメリカ人の特徴を100%出しきって自分はあれが出来る、これが出来ると堂々と胸を張って話をしてくれました。

日本語の能力を試すために、言葉を切り替えると途端に 「宜しくお願いします」 等々の連発で、これが同じ人間かと思うほどのコントラストでした。彼はある意味で日本語、日本文化を一生懸命勉強したのでしょう。

ところが最近グローバル化といわれる時代になり、文化の垣根が段々無くなってくるのではないかとも思い始めました。グローバル化の時代であるが故、日本語を話せる外国人も、英語や他の外国語を話す日本人も多くなりましたが 「言葉を勉強することは、その背後にある文化を勉強すること」とまでいかなくなってきたような気がします。

良い意味では、とにかく e-mail や面と向かっての会話等で外国人と接する機会が増えましたので、とにかく用件を満たすために通じる言葉を書いたり話したりする必要性が格段に高まり、その結果、男子部28回生・福田さんが書いておられたサーバイバル・ランゲージを習得している人の数はかなり増えてきたかと思います。ボクはこれは、大変良いことである思います。

他方、実用的またはサーバイバルに主眼を置くため、ある言葉の後ろにある文化的背景には目を向けそびれる、または目を向けずに済むというのも現実かと思います。

その点で、今後外国語 (特に英語は) は特殊な能力というよりは、必要最低の道具になっていくと同時に、日常使われる範囲では、どんどん平準化 (簡素化、換言すれば劣化) していき、方言や特殊な言い回しは段々に姿を消していくのではないかと思います。

同じ事が日本語にも言えるかと思います。その意味で、日本特有の文化的背景を持った言い回しも段々姿を消していくのかと思います。もっと拡大して言えば、マクドナルドに行けばとにかくハンバーガーが食べれるように、世界中の言語間の違いが段々姿を消していくのではないかという気がしています。

鶏が先か卵が先かの議論になりますが、そうすると自動翻訳ソフトもますます性能が上がり、そして売れるようになり、その結果言葉もどんどん簡略化していくのかとも思います。

外国語 (日本語)を勉強するのに、文化的背景まで掘り下げて深くやるか、取り敢えず短期間に使えるだけ習得するか。もちろん短期間で前者が出来れば申し分ありませんが、グーローバルビジネス時代に突入した今、資本主義、結果主義が益々台頭していく中、ボクも含めてほとんどの凡人は、必死で後者に少しでも近づくように努力しているのが現状でしょう。

話は飛躍しますが、それでもボクはマクドナルドより、一見では一寸入り辛い、偏屈オヤジのやっている縄暖簾のほうが大好きですから、今後もPDNにて俳句、川柳、日本語の話題がでてくることを期待しています。

郷田 敬


(注)この論文と呼ぶべき優れた書き込みは、自由学園の卒業生によるメイリングリストPDN (Primary Dougakunotomo Network) から、郷田敬君の了承を得て、ここに転載したものです。


郷田敬 in 男子部普通科3年教室
1999.0812