サーチ よりも ソート

コンピュータが得意とする機能に、サーチ(検索)とソート(並べ替え)がある。

世の習いとしては、ひとつひとつの点を探すサーチの方が、多く用いられるだろうか。しかし、色濃い中心へ向かう周辺の階調から何ものかをつかもうとするソートこそが、実は面白い。

飛行機による旅はサーチだ。点から点への移動。成田空港を飛び立って、ただ座っていれば、いきなりカルカッタの混沌にたたき込まれる。乗り合いバスや鉄道あるいは徒歩による旅は、ソートだ。目的地から目的地へのグラデーションに、無数の楽しみが散らばっている。


ある秋の一夕、銀座の真ん中にあるとは思えないひなびたモツ焼き屋で、生の焼酎に赤ワインをチョロリと入れた 「ブドウ」 を飲んだ。 このブドウ、店のオキテで3杯しか飲めないことになっているけれど、2杯も飲めば充分の強烈な酒だ。

その後、銀座5丁目の近藤書店、地下鉄銀座駅のキヨスク、本郷三丁目駅前の文泉堂で、計6冊の本を買った。

スタインベック短編集   スタインベック   新潮文庫   \  476
晩秋   ロバート ・ B ・ パーカー   早川文庫   \  600
芸術新潮 ・ 副島種臣      新潮社   \ 1,200
白州次郎      平凡社   \ 1,524
日本の名随筆 「将棋」   団鬼六   作品社   \ 1,800
奇形全書   マルタン ・ モネスティエ   原書房   \ 3,400

僕によって1冊だけ買われた本を見ても、僕の人物はなかなか分からないだろう。しかし僕が選んだ6冊の本を俯瞰すると、僕という何かが浮かび上がってくるかも知れない。

オンライン書店の検索サーヴィスで、めざす1冊の本を見つけて購入することはサーチ。ある秋の晩に重篤なアルコール中毒患者として本屋へおもむき、書棚をめぐって目にヒットしたものを次々と買っていく行為はソート。

どう考えても、ソートこそ面白い。コンピュータにおいても、また日常においても。


蒐集物語・柳宗悦 アジア無銭旅行・金子光晴
1999.0910