本読み

自分には明らかに学習障害の気味があって、だからダグラス・マグレガーやピーター・ドラッカーの本は読めない。どうして読めないかといえば、それを読んでなにかの役に立てようと企図した途端に脳のどこかが閉鎖され、しかしせっかく買ったものを途中で放り出すのは勿体ないからとにかく最終ページまでは自らを強いて文字を追い、結局はなにも残らないことを知っているから読めない。

読書感想文というものも書けない。本を読むことは自分にとってただの暇つぶし、と言って悪ければ飲酒喫煙のようなもので、感想を書こうとすれば、それは本読みが遊びではなく仕事あるいは勉強になってしまうから書けない。2005年に読んだ本を並べてみると当然のことながら、人の目につく場所に置いて見栄えのするようなものはなにひとつ無い。感想文は書けないが印象に残ったものについての覚え書きくらいなら記すことができると思うからそれを記す。

「水のように笑う」 は懐かしさと抒情性が錐のように胸を突き通して痛い。「ボクの音楽武者修行」 は浮谷東次郎の「がむしゃら1500キロ」 に並ぶ冒険譚あるいは成功物語。「よく生きる人を育てる-偏差値ではなく人間値」は、自由学園の教育を明快直截に紹介する最良の書。「心は孤独な数学者」 は哀惜の情にあふれて美しい紀行文。「一銭五厘たちの横町」は著者の早世が惜しまれる素晴らしい仕事。「東京1934~1993」は、淡々とした記録が数十年を経て耽美的な世界を現出させたことを証明する写真集。

「四百字のデッサン」は一気に読むことが惜しい文章だから、開いて1ヶ月を過ぎてもわざと読み終えない。そして階段室の本棚からこぼれ落ち床に山を為した中から選び取った、関川夏央と山口文憲による 「東京的日常」 は購入から15年が経つけれどもいまだ勿体なくて読む気がせず、ふたたび山の中へと戻した。

--- 01月 ---
「東京旅行記」  嵐山光三郎著  知恵の森文庫
「超級食香港」  菊地和男写真・文  平凡社
「素敵なダイナマイトスキャンダル」  末井昭著  ちくま文庫
"ASIAN JAPANESE"  小林紀晴写真・文  情報センター出版局
"ASIAN JAPANESE 2"  小林紀晴写真・文  情報センター出版局
 
--- 02月 ---
「アジア旅物語」  小林紀晴写真・文  世界文化社
"ASIA ROAD"  小林紀晴写真・文  講談社
 
--- 03月 ---
「悩ましき買物」  赤瀬川原平著  光文社
「M型ライカの買い方・使い方」  内田ユキオ著  ナツメ社
 
--- 04月 ---
「Shall weダンス? アメリカを行く」  周防正行著  太田出版
「パリ開放」  赤瀬川原平、秋山祐徳太子、高梨豊  アルファベータ
「ライカ百景」  佐々木悟郎  枻文庫
「ロシアカメラがむせぶ夜は」  田中長徳著  グリーンアロー出版社
「中古カメラの愉しみ 金属人類学入門」  赤瀬川原平著  知恵の森文庫
「ソビエトカメラ党宣言」  中村陸雄著  原書房
「棋士」  二上達也著  晶文社
 
--- 05月 ---
「水のように笑う」  関川夏央著  双葉社
"Tokyo Generation"  小林紀晴写真・文  河出書房新社
「ボクの音楽武者修行」  小澤征爾著  新潮文庫
「カポネ大いに泣く」  梶山季之著  角川文庫
「文壇」  野坂昭如著  文春文庫
「比較文化の目」  P・プリザールほか著  サントリー博物館文
「よく生きる人を育てる-偏差値ではなく人間値」  羽仁翹著  教文館
「優柔不断読本」  尾辻克彦著  文春文庫
 
--- 06月 ---
「新対局日誌 第一集 二人の天才棋士」  河口俊彦著  河出書房新社
「将棋王手飛車読本」  別冊宝島380  宝島社
「天涯(1) 鳥は舞い光は流れ」  沢木耕太郎写真・文  集英社文庫
「純粋なるもの」  島朗著  新潮文庫
「私の食物誌」  池田弥三郎著  新潮文庫
「酒食生活」  山口瞳著  角川春樹事務所
「複写『写真時代』」  荒木経惟・末井昭  ぶんか社
 
--- 07月 ---
「花火屋の大将」  丸谷才一著  文春文庫
 
--- 08月 ---
「華人歌星伝説 テレサ・テンが見た夢」  平野久美子著  晶文社
「高松宮同妃両殿下のグランド・ハネムーン」  平野久美子著  中央公論社
「偽ライカ同盟入門」  田中長徳著  原書房
 
--- 09月 ---
「青いあひる」  水木楊著  文藝春秋
「心は孤独な数学者」  藤原正彦著  新潮文庫
「面白半分 快人列伝」  佐藤嘉尚著  平凡社新書
 
--- 10月 ---
「アラ~キズム」  荒木経惟著 伊藤俊治責任編集  作品社
「一銭五厘たちの横町」  児玉隆也著・桑原甲子雄写真  岩波現代文庫
「東京1934~1993」  桑原甲子雄写真  フォト・ミュゼ
「撮るライカ」  神立尚紀著  光人社
「文士の時代」  林忠彦写真・文  朝日文庫
 
--- 11月 ---
「遠い国」  小林紀晴写真・文  新潮社
「日記のお手本-自分史を刻もう」  荒木経惟ほか著  小学館文庫
「トオイと正人」  瀬戸正人著  朝日新聞社
 
--- 12月 ---
「四百字のデッサン」  野見山暁治著  河出文庫
「写真とことば 写真家二十五人、かく語りき」  飯沢耕太郎著  集英社新書
「帝国ホテル厨房物語 私の履歴書」  村上信夫著  日経ビジネス人文庫
「巨人、大鵬、卵焼き 私の履歴書」  大鵬幸喜著  日本経済新聞社

水のように笑う
2006.0201