"Eddie Bauer"のスリーウェイパック

エディバウアー社は紆余曲折を経ていまだに存在しているけれど、この会社の傑作スリーウェイパックが、かなり以前から生産中止になっている理由が分からない。

自分がいつの頃から使い始めたのか、もう思い出せないほどに、このザックと僕とのつき合いは長くなった。

冬なら1泊2日、夏なら2泊3日分の短い旅には、20リットルほどの容量を持つザックが最適だ。この大きさのザックを、僕は3つ持っている。

●ひとつは英国カリマー社製のピナクルー。容量は23リットルで、赤と緑のコントラストが美しい。購入したのは1981年。地下鉄都営浅草線の三田駅構内でこのザックを見かけ、あまりの格好良さに近づいてザック名を確認し、あちらこちら探し歩いた末に、神田駿河台下の石井スポーツで手に入れた。

開口部をヒモでキンチャクのように引き絞り、1本ベルトで雨蓋を固定する1室型の典型的なアタックザックで、こと衣類と小物用のポーチを入れるには最適の構造だ。強いて短所を挙げるとすれば、パッキングに気を遣わないと、背中の感触に難がある点だろう。軽量化されたアタックザックの宿命で、これはこれで仕方がない。

ちなみに私の家内はこの23リットルのザック1個で、シンガポールから香港経由で台湾に至る3週間の旅行をこなした。これを、旅人のカガミという。

●1998年に購入したグレゴリー社製のミッションパックは、容量が25リットル。厚くパッドの入った左右のショルダー・ベルトを胸の前で連結する特有のストラップを持つ構造だ。そのお陰で、これを背負って走る必要が生じた場合になどは、抜群の安定感が得られる。

しかし「パック界のロールスロイス」と呼ばれるこの会社の名声に惹かれて使用を始めては見たものの、僕にとっては多くの欠点をも、このザックが持ち合わせていることに気がついた。

  1. 厚くパッドの入った固いショルダーベルトが、首に沿う部分で湾曲したデザインを採用していない。そのために、ベルトが頸動脈を圧迫する。
  2. ビジネス鞄にも使えるように、黒い革製の取っ手がついているが、この取っ手のボタンを外さないと、本体部分のジッパーが開けない。 外部には全くポケット類がないため、ちょっとした小物を出す際にも、取っ手の固いボタンを2つ外し、これまた堅固なジッパーを開くという二重の手間を強いられる。
  3. 内部の小物入れは、ただの縫い目で区分けされたパッチポケットのため、このザックを背負って歩くと、内容物がザック内にこぼれ落ちて、わざわざ区分けした意味が無くなる。

●さぁ、ここで真打ち、エディバウアー社製スリーウェイパックの登場。容量は前記の二者とくらべても1番少ないのではないだろうか。多分20リットルには届かないかも知れない。

それではなぜ、手持ちのザックの中で、結局はこればかりを使うようになったのか、その理由を以下に挙げてみよう。

  1. A4のフォルダーがきっちり収まる長方形で、本体に沿ってコの字型のジッパーを開ければ、内部の全てを俯瞰しながら荷物の出し入れが可能。 (これは、グレゴリー社のミッションパックも同じ)
  2. 開口部に雨よけのヒサシがないため、またジッパー自体がそれほどゴツくなく、更にはそのジッパーが革製の取っ手を回避しているため、本体の開閉が容易。
  3. 本体の外側に、広めのマチをとったポケットが装備してある。またここが更に3室に区分けされているために、文庫本、カギ、携帯電話、財布、名刺、カード入れ、リップクリーム、ヘンケル社製の爪切りとハサミ、アスピリン(二日酔い対策)、胃薬(暴飲暴食対策)、ヴィタミン剤(肉の食べ過ぎ対策)などが効率よく収まり、かつ取り出しやすい。
  4. グレゴリー社製ミッションパックに見られる、まるで箱を背負っているような外観上の違和感とは無縁の、柔らかい仕立て。

エディバウアー社がこのスリーウェイパックの生産を中止した後に、いくつかの会社から同じデザインのザックが出されたことは知っていた。妥協に妥協を重ねれば、それらの中から次期のザックを選ぶことが可能かも知れない。

ところが有り難いことに、僕のスリーウェイパックはいまだ、壊れる気配を見せないでいる。 唯一の瑕僅は、1995年6月13日(火)、午後6時の神田から9時の東京駅までの3時間に、何者かによってつけられた煙草の焼け焦げだけだ。

Eddie Bauer のスリーウェイパック
1999.0409