江戸時代、とひとくちに言っても、二五〇年ほど続いた長い時期です。この時期の記録は、今では散逸してしまっているものが多く、詳細はわかりません。


菩提だった近所のお寺に保管されていた過去帳も、二度の大火で損なわれてしまいました。


我が家には、綱吉の時代に上澤藤左衛門が作ったという銭函が残っているので、その時期には米穀あるいは味噌を扱う商売をしていたと考えています。


また、幕末の検地書など文書はいくつか残っており、そこには様々な取引の記録があります。


前回、漬物には大きくわけて2種類あるとお伝えしました。


一つは、高い塩度で保管・熟成させてから食べる「古漬け」、もうひとつは生野菜を調味液に漬けて、比較的短期間で食べきる「浅漬け」です。


弊社の「たまり漬」は、「古漬け」に属しています。

知り合いの農家のところに遊びに行くと、おやつ、というか、お茶請けとして、胡瓜の古漬けの輪切りがよく出てきました。


茶色くしぼんでいて、噛むとコリコリした食感と、乳酸発酵臭がします。ぼくは、小さいころから、この食感と香りが大好きでした。

余談かもしれませんが、北関東・東北出身の友達と居酒屋に行って「お新香盛り合わせ」を頼んだりすると、必ず醤油をビタビタにかけますよね。


家でやって、奥さんに嫌がられているお父さんも多いのでは、と想像します。アレは何なんでしょう。私見では、古漬けを原材料として、さらに醤油で浅漬けにしているのでは?などと思っております。


そう、それこそが、まさに、現代の「古漬け」の製法の起源なのではないかと考えているのです。


塩蔵漬物を原材料に、醤油や甘酢などを用いて、風味に変化を持たせる。これこそが、現代の「古漬け」の漬物づくりの原型です。


最も古い記録としては、幕末、天保七年(一八三六年)に、漬物店・小田原屋の店主が著した『四季漬物塩嘉言』という漬物の専門書に、「古漬け原材料を調味液に漬け替える」レシピが紹介されています。