東京・下北沢の発酵デパートメント様「RADIO #ただいま発酵中Podcast」に出演いたしました。以下のリンク先より放送をお聴きいただけます。「上澤梅太郎商店とたまり漬け」をテーマに発酵上級者のトークをお楽しみください。

  • ※出演回は、#128、#129、#130の全3回です。
  • ※リンク先はすべて外部サイトです。
ラジオ「ただいま発酵中」の収録の様子

イントロダクション

イッシー:皆さん、発酵してますか?
イッシーことバックパッカーズジャパンの石崎嵩人です。
ヒラク:発酵デザイナーの小倉ヒラクです。
イッシー:この番組は発酵をテーマに食はもちろんカルチャーや人類学サイエンスまで、あれこれ突っ込んで語りまくるラジオです。
ビギナーから上級者まで発酵にGO!
ヒラク:さて、ゲスト回ですよ。
イッシー:ゲスト回ですね。
ゲスト回続いておりますね。
ヒラク:今年のゲスト回、大体いいよね。
イッシー:ものすごい!本当に楽しい。そして評判も良い。
あと、この前の阪神出張のゲスト回でもあり、公開収録でもありの、木桶の会も凄い評判も良かったし、面白かったです。
ヒラク:木桶の会、凄まじかったね。
イッシー:僕、何回も聞いてました。凄く面白い。
ヒラク:そうね。映像がないのが残念なんだけど、周りに聴衆がいたので。
イッシー:熱気もありますよね。会場の。
ヒラク:リスナーが周りをずらっと取り囲んで、イッシーに手を振る。
イッシー:そうね。握手されたりもしました。嬉しかったですけど。
ヒラク:そうですね。
イッシー:そんな訳で色んな人が来てくれると。
我々もまた新風を感じつつ、お話できるので楽しいですね。
ヒラク:さて今日のゲストは、栃木県今市からやってきてくれています上澤梅太郎商店の上澤さんです。

「発酵デパートメント」にて【POP UP SHOP 上澤梅太郎商店】を開催

上澤:よろしくお願いします。
イッシー:お願いします。
ヒラク:じゃあ、簡単にどんなことに取り組んでいるのかをお話しいただきたいなと思います。
その前に実は今、発酵デパートメント下北のお店で上澤さんのフェアを開催してるんですよ。
イッシー:上澤さんのフェアを開催してる!
ヒラク:そう。実は去年も開催したんだけど、去年凄かったですね。
上澤:本当にたくさんのお客様にいらしていただいて感謝です。
イッシー:簡単に言うと感謝!
ヒラク:本当は土日が結構メインになるはずで、金曜の夕方ぐらいに前乗りして商品を並べて、前夜祭的なことをしたんだけど、前夜祭でほとんど商品売れ切れちゃって。次の日に売るものがないなみたいな。そんなとんでもない量になるぐらいで。
イッシー:大評判すぎる。
ヒラク:上澤さん本当に全国にファンが多くて、非常に面白い醸造蔵なんですけど、どんなものを作ってるんですか?
上澤:はい。栃木県の日光市、合併で日光市になったんですけど、昔は今市という町で、そこでたまり漬けという漬物を作っています。
ヒラク:僕らの目の前に、あるんですけど。
イッシー:ありますね。輝いてます!
ヒラク:いいでしょう。このテクスチャ!
イッシー:これテクスチャっていうの!?
ヒラク:せっかくだから食べてみます?

「らっきょうって主役だったんですね。」

上澤梅太郎のたまり漬けらっきょう
上澤:是非、召し上がってください。
ヒラク:イッシー、どうぞ。
イッシー:僕、実はいただいたことあるんですよね。そして大好きなんだよな。
上澤:ありがたい。
イッシー:美味すぎるからな。
ヒラク:僕もよく食べてます。
イッシー:美味ーっ!
上澤:わぁ、嬉しい。
イッシー:食べてる音がらっきょうだと音が凄く入っちゃうね。
上澤:ASMRにもなりますね。
ヒラク:美味しいよね。
上澤:いや、嬉しい。
イッシー:まず口に入れた瞬間、美味しい。
それこそ周りをコーティングしているテクスチャの味で舌をなぞっている感じが。
ヒラク:上澤さんと僕は47都道府県の発酵文化を巡る旅をした時に栃木の今市で出会ったんだけど、最初に食べた時の衝撃、凄くよく覚えているんだよね。
らっきょうってカレーの横についてる脇役的なイメージがあったんだけど、食べた瞬間に人生でちゃんと、らっきょうに向き合ってこなかった自分を恥じた。
イッシー:僕も本当によく分かって、なので僕も凄く美味しいと思ってるんですけど、なんでこんなに美味しいと思ってるかと言うと、僕らっきょうそんなに得意じゃなかったんです。
昔だけじゃなく今もそんなたくさん好き好んで食べる訳じゃないんですけど、上澤さんのらっきょうを口に入れた時の甘醬油感がツルツルと入ってきて、奥にらっきょうの食感があるから、それがミックスして凄く美味いって感じていて。
らっきょう得意じゃなかったことがあるからこその感動レベルまでの旨味を感じている気がします。
ヒラク:僕もまったく一緒。
だから、らっきょう嫌いじゃないけど、そんなに美味しいものだと思ってなくて。
いきなり旨味のハードルを何段階もぶち破ってくるじゃない?このらっきょうは。
らっきょうって主役だったんですね。
すみませんでした。
イッシー:でも、「らっきょうって主役だったんですね」は凄く分かる。
上澤さんの、らっきょうに感じましたね。
ヒラク:友達に食べてもらったの。これはとんでもない、らっきょうだと。
その友達のコメントがまたふるっていて、一粒、食べ終わる度に悲しくなると。
イッシー:もうすぐ終わっちゃうみたいなこと?
美味すぎる食べ物に言う言葉だ!
ヒラク:食べ終わるごとに切ないというコメントをいただき。
イッシー:イチゴのパックを食べるときに思うのと一緒だ。
ヒラク:大変なものですね。
上澤さん、僕ら喋りすぎました。どうぞ。
どんなものですか?このらっきょうは。
上澤:一年分ぐらいの褒められようを一身に受けましたね。
これは、らっきょうのたまり漬けでして。
我々はらっきょうのたまり漬けだけでなく、大根や胡瓜、茄子など色々作ってるんですけど、らっきょうのたまり漬けが一番人気なんです。
今召し上がっていただいたものは自社の定番である通常ラインの
らっきょうのたまり漬けとは実は違います。
イッシー:そうなんだ!
上澤:はい、これは発酵デパートメントオリジナルで開発した、その名も「食卓の主役を張れるらっきょう」。
イッシー:言ったまんまだ。面白いな。
ヒラク:僕のネーミングは、ひねらないので有名。
イッシー:なるほど。そうなんだ。
僕は全然背景を知らなかったから、その通りだと思いましたよ。お話聞いて。
ヒラク:でも元々レギュラーラインも凄く美味しいんですよ。
イッシー:レギュラーライン、美味しいですよね。
レギュラーラインも主役張れる気がするけど。
ヒラク:だから、このオリジナルのらっきょうができた背景から話していくと、上澤さんたちの出自、何に取り組んできたかが分かるかなと思います。
まず上澤家が代々どういう成り立ちで今市に行って、何を作ってらっしゃるのか聞きたいんですけど。
上澤:ありがとうございます。
まず栃木県の日光市。石崎さん栃木県出身なんですよね?
イッシー:同郷なんですよね。栃木県の出身だから。
上澤:しかも同じ85年生まれですね。
イッシー:同い年ですね。
ヒラク:親近感。

グローバルな視点から生まれた上澤梅太郎商店のたまり漬け

元来は年貢米の米倉を管理する一族だった

上澤:今更説明するのも恐縮ですけど、栃木県の日光市という所は言わずと知れた徳川家のお膝元と言いますか。
二社一寺ですね。二荒山神社・輪王寺そして日光東照宮というお寺や神社がありまして。
徳川家康公が亡くなった時にここに葬られたというのが今の日光の町の形を造ってきている一番エポックメーキング(出現前と後で社会的に大きな違いが生ずる)っていうところですよね。
ここ日光から東京を結ぶ江戸に日光街道がバーンと通りまして。
我々の家がある今市というのはその日光に至る一個手前の宿場町なんです。
ここが、日光と江戸を結ぶ日光街道。
それから京都と会津を結ぶ、例幣使街道・会津西街道の交差点になってまして、物流が凄く盛んな町として栄えたと聞いています。
我々の家はこの日光街道がバーンって通った約400年前に創業をしまして、当時はお米の預かり業をしていました。
イッシー:ほおお!
上澤:日光は、大名やお殿様に年貢米を納めるのではなく、いわゆる神領と言う二社一寺の日光さんと呼ばれていた東照宮に年貢米(お米)を持っていくことになっていました。
そのための米蔵が今市に巨大な穀倉として作られまして、そこの管理を行っていた一族になります。
ですから元々はお米の預かり業、流通業をしていたんですね。
当時お米はお金みたいな価値を持っていますので、税金のように今市の穀倉に集積されたお米で日光さんの神職の皆さんの給料が支払われていた。
余ったものは民間に払い下げられて民間で流通して経済が回っていたらしいんですね。
そこで創業してお米が集まってきたり大豆が集まってきたりするので、そこに付加価値をつけようと言って味噌や醤油を作るようになった。
そして戦後、味噌や醤油の醸造が結構しんどくなってきて、日光や鬼怒川は今戦争でガタガタになってしまったけど、必ず世界的な観光地として復活するはずだから、この味噌や醤油を培ってきた技術を使って地域名産品としての漬物を作って売り出していこうと考えたのが、僕の曽祖父になりますね。
そこで、できたのがたまり漬けという漬けものになります。
ですから今でも味噌や醤油を作ってるんですけど、メインはたまり漬け。
一番人気はらっきょうというところで、この400年分の歴史をざっくりとお話させていただきました。
ヒラク:これは醸造業あるあるで、庄屋さんだと思うんですけど、お米を扱った。
上澤:そうです。庄屋的なものですね。
ヒラク:お庄屋さん的な存在が醸造業を始めるって凄くよくあって、色々背景があるんですけど、二つは元々、お米をいっぱい預かってるので、原料があったというのもあるし、もう一個あるのは地域の信頼と、あとデータベースを持ってるっていうのもあるのよ。
イッシー:どういうことですか?
ヒラク:例えば味噌や醤油の必需品や酒を作ったときに顧客名簿がもうできている。
イッシー:なるほど。
ヒラク:あそこは、あれぐらいお金を持っているとかね。
イッシー:取引先みたいなこと?
ヒラク:そう。だから顧客ポートフォリオを分厚く持ってるので、売り先としての販売チャネルがあるんですよね。
だからまったく何も分からないまま立ち上げるよりも販売チャネルを持っていた方が加工付加価値商品を作る強みになるじゃない。
だからコンバート(転向)していくパターンが多くてしかも凄くマニアックな話をすると実は麹って新しい米よりも1、2年経った古米の方が美味いんだよね。
イッシー:そうなんだ!
ヒラク:少し古くなった米の方がいい麹できるんだよね。
だから預かってるときに過剰在庫分が出てくると。
飢饉に備えて少し備蓄米を取っておくと思うんだけど、無事飢饉が起こらないとその分は余剰になるから、麹にするかみたいな話になって。
イッシー:スゴイ、有効活用だ。
ヒラク:すげえマニアックなこんな知識を知ってて、どうなるのという話になるんだけど。
そういうので回って庄屋さん的なものや米の預かりの組合から醸造業が出てくるっていうのは、全国で実はあって、上澤さんのところもその一つってことなんですね。
イッシー:なるほどですね。
ちなみに醸造業の中から漬物作りが出てくるっていうのは、よくあるんですか?
ヒラク:あんまり多くない。そっちは。
イッシー:こっちなら取り組んでいる。そうですよね。
あんまり聞かない気がするけど。
上澤:味噌屋さん、醤油屋さんは社会的なインフラっていうイメージが強いですけど、漬物はそういう存在ではなくて。
イッシー:確かに。

「一流の観光地に一流の名産品を。」ブランディングの先がけ

対談の様子
上澤:社会的な認知ですよね。それも戦前、戦中の話ですけど。
我々の曽祖父が漬物を始めて観光品や地域名産品にしていこうって思った時には、味噌業者さんの同業者さんから醤油業者さんに凄い言われたみたいですね。
そんなことを始めてみたいな。
イッシー:そういう感じだった、当時は?
上澤:そうらしいんですよね。
やっぱり漬物よりも味噌、醤油そして酒の方が社会的地位が高いイメージを当時の人たちは持ってたようで。
イッシー:漬物の方が嗜好品で付け合わせみたいなイメージが大きいから。
上澤:そうですよね。
ヒラク:でも漬物にチャレンジした訳ですよね。
上澤:そうですね。
だから凄く理由が振るっていて、世界に打ってでるんだっていう意識が当時から凄いあったみたいなんですよ。
ヒラク:スゴイじゃないですか!大志!
イッシー:アンビション。
上澤:アンビシャスですね。
僕の曾祖父は味噌造りや醤油造りに取り組んでたんですけど、もともとは養子で横浜のシルク商の息子だったんですよ。
イッシー:シルク商!
上澤:そうそう。
ヒラク:突然グローバル!
上澤:だから凄くグローバルな視点があって、日光や鬼怒川は戦争で一回リセットされてしまったけど、絶対外国人観光客がたくさん来るはずだからとか、観光地としてかなり復興するはずだから一流の観光地には一流の名産品が必要だろうと。
イッシー:はい。
上澤:そのためにはスイスに留学して一流の観光地の一流の土産物を俺は調査したいんだみたいな日記を昭和20年の8月に残した。
イッシー:ヤバい。
ヒラク:それで行った?実際に。
上澤:結局行けなかったんですよ。
ヒラク:行けなかったんですね。
上澤:行けなかったんですよ。
イッシー:そっか。でも醤油や味噌そのままではなく、漬物っていうプロダクトに起こして名産にしたかったって思いがあるってことですね。
上澤:そうですね。
あとは戦中とかに大口のお客さんに味噌や醤油を配達に行くときに、当時は木桶で造ってるから桶の底に少し余るんですよね、味噌や醤油って。
そういうのを取っておいて漬け床にして野菜を漬けて、ノベルティで持って行ってたらしいんですよね。
イッシー:ノベルティとして。
上澤:おまけみたいな。
それが「凄い美味いじゃない!」ってこともあったらしいです。
イッシー:でも、いい広がりだ。
ヒラク:これをブランディングしていくかっていうところから始まったわけですよね。
上澤:そういうことですね。
ヒラク:今たまり漬け、日光周辺で凄い看板いっぱい見るから、上澤さんたちが起こした事業は日光のスタンダードになったということなんですよね。
上澤:そういうことですね。
ですから祖父や父の代だと真似されただったり後追いがみたいな忸怩たる思いであったりしたようなんですけど、自分としては本当に地域の産業になったのは凄いことだと思うから。
イッシー:曽祖父も喜んでくれている可能性もありますよね。
上澤:それは分からないですね。
ヒラク:分からない…
イッシー:言っただろ的な感じになってるんじゃないの?
上澤:確かに、そうですね。
ドヤ感はあるかもしれないですよね。
ヒラク:明太子みたいなこと?
上澤:そうそう。
ヒラク:明太子は、実は創業者が囲い込まなかったんですよね。
オープンソース(無償で公開)にしてこれは福岡の冠たる(最も優れた)名品にしたいから、本家と名乗れるのはその時代その時代で最も良いプロダクトを作ったものだと。
別に自分ではなくてもよいというね。
イッシー:面白いな。
上澤:スゴイ!
ヒラク:それで福岡の名産品としてカテゴリができたから、囲い込み過ぎてたら名産品にはならなかったかもしれない。
たまり漬けも似たようなところがあって、そういう大志から生まれたことによって、その地域の名産品になったっていうのはいい話ですよね。
イッシー:確かに。
ちなみに作り方の話をしてましたけど、たまり漬けって前提知識としてどういうものなんですか?そもそも。

上澤梅太郎商店のたまり漬け、おいしさの秘密

おいしさの秘密を語る上澤さん
上澤:そうですね。
基本的にはたまりで漬けるから、たまり漬けっていう漬物なんです。
たまりって多分リスナーの皆さんはご存知だとは思うんですけど。
イッシー:可能性あるなー。
ヒラク:みんな、よく知ってるからな。醤油回で話したしね。
イッシー:確かにね。
上澤:たまりって基本的には東海地方プロダクトですよね。
ヒラク:そうですね。
上澤:味噌など豆的なものを作って絞るのがたまりなんですけど、我々の場合なぜかルーツがよく分からないですが、味噌を作ったり醤油を作ったりして桶の底に余ってたから漬け床になって始まったんですね。
味噌を作る時に出てくるたまりを取っておいて、これに漬けるぞっていうのが、たまり漬けになります。
イッシー:じゃあ醤油のたまりじゃなくて、味噌のたまりから基本的には作っていく?
上澤:我々の解釈としてはそういう風になっております。
イッシー:なるほど。
ヒラク:味噌を発酵させる時に上澄みあるいは沈殿物で出てくる液体に食材を漬けていくと。
イッシー:液体、出てきますもんね。
ヒラク:もうちょっと細かく聞いていいですか?

浅漬けと古漬け

上澤:はい。基本的な作り方としましては漬物の製造工程、特に漬物って浅漬けと古漬けにざっくり言うと分かれます。
イッシー:おお!そうなんだ。
上澤:はい。
ヒラク:漬物基礎講座。いいですね。
上澤:浅漬けは生野菜を調味液に漬けて、生のまま食べるのが浅漬けですよね。
代表的なのがキムチやスーパーで売ってる胡瓜の漬物、あと家庭で作る的な浅漬けの素。
イッシー:家でも簡単に作れるイメージありますよね、パッと。
上澤:そうですね。
それが浅漬け。対して古漬けは収穫した野菜を一旦塩蔵します。
塩漬けにして数ヶ月ほっておくとブクブク乳酸発酵が起きまして、例えばらっきょうでいうと夏野菜なので、今まさに5月・6月・7月に収穫する野菜なんですけど、これを塩漬けにしておくと熱いからブクブク発酵して寒くなってくると自然にそれが止まって塩蔵完了みたいな感じになるんです。
その状態からスタート。
そこから、らっきょうの場合は甘酢であったり、たまり漬けの場合はたまりであったり、そういうものにちょっとずつ漬け込んで、そして我々の独自製法になると思うんですけど漬け床をどんどん変えていくんですね。
ちょっとずつ味を作っていって本当に数カ月、何年と寝かせて味が慣れたらOKみたいな。
イッシー:凄く時間かかってますね。
上澤:凄く時間がかかります。
イッシー:そうなんだ。
ちなみに塩蔵ってどういう状態になっているんですか?
上澤:塩蔵は塩漬けの状態なので一番ミニマムな感じで言うと50Kgから100Kgくらいの小さい桶や樽みたいなもので
塩漬けして上からギュッて重石をかけて水をあげる。
イッシー:水をあげる?
上澤:野菜に塩をかけると塩が野菜の細胞から水分を引っ張り出すじゃないですか。
それで水がチャポチャポンって上がって上から重石をしておくと野菜の面より上に水面が来ますよね。
イッシー:そうか!
上澤:そうすると基本的に中は無酸素状態、機密状態になりますので、塩分があり、かつ酸素が遮断されて保存性が増すよというのが塩蔵の基本的な考え方になりますね。
ヒラク:高塩分値かつ脱酸素なので雑菌が入る要素は限りなく少なくなっていく状態。
発酵の基本のところで、腐りにくくするときどうするかみたいな話。
イッシー:そうですね。
ヒラク:非常にオーソドックスなことを、ここで試されているのかなと思います。

塩と同じぐらい圧力が凄く大事

上澤:そうですね。
特に塩が入ると腐りにくくなるよというのは、よく聞くことだと思うんですけど、もう一つ圧力が凄く大事。塩と同じぐらい。
今ヒラクさんがおっしゃってくださったように圧力が大事で、上からギュギュって押すと、水が上がって水よりも下に野菜がある状態になって、圧力を適正値でかけるのが、ものすごく大事になってきます。
ヒラク:圧力をかけて脱酸素状態にしていくって重要なことで、なぜかと言うと酸素がある状態だと酸素でエネルギー獲得をする微生物が働く余地がでてくるんです。
酸素を使う生物の代謝って大体臭いんだよね。
上澤:そうなんですか!
ヒラク:アンモニア発酵になると思うんだけど。
狭義の狭い定義の発酵で、酸素も日光も使わない代謝を発酵って言って、昔の工業的な発酵の定義があるんだけど、それこそ教科書的な。
これはどこから来てるかと言うと酸素を追い出して、かつ光が入らないところで微生物を反応させると美味しくて臭くなくなる。
イッシー:うんうん。
ヒラク:そういうところから来ていて。
ただ実は酸素を使う発酵はいっぱいあるから、一概に嫌気状態にするのがいいかって言ったらそうでもないんだけど、ただ漬物においては基本的には脱酸素の状態にした方が圧倒的に美味くなるし香りが良くなるのは真理。
上澤:余談になっちゃうかもしれないんですけど、漬物って塩漬けする、塩蔵するのが基本みたいな感じに今の流れだとなってる気がするんですけど、むしろ僕は圧力の方が大事じゃないかと思っていて。
その証拠にすんきってあるじゃないですか?
あれは塩を使わないで上から押しておくだけじゃないですか。
圧力だけによって得られる発酵食品がむしろ本流で、塩って後から入ったんじゃないかなっていう気もするんですよね。
味が美味しくなるだったり、より腐りにくくするみたいな感じで。
イッシー:プラスのブーストする(良さを引き出す)ための飼料だと。
「これ入れたら良くないかな?」みたいな感じで入れたんじゃないかなっていう気さえしてる。
それぐらい圧力が大事のような気がするんですよね。
ヒラク:上澤さんのところも塩分少ないですよね。

浅漬けでも古漬けでもない、上澤さんのたまり漬けの特色

上澤:そうですね。いや、塩分で言うと、らっきょうはそうなんですけど、他の商品は実は塩分高めですね。
ヒラク:らっきょうは、かなり低い?
上澤:らっきょうは、まあまあ低いですね。
でも今は色んな漬物の作り方が出てきて、さっき浅漬けと古漬けっていう分類をしたんですけど、我々のたまり漬けもそうで概念的には古漬けの原料を使って浅漬けを作っていくみたいなイメージさえある。
だから今の現代のスーパーで流通してるような一般的な漬物ってかなり低塩なんですよ。
保存性がほぼないぐらい塩度が低いので、そこからすると我々の漬物は結構しょっぱい。
でも逆に言えば、ひとつまみでご飯いっぱい食べれるから凄く満足度が高いとも言えますね。
ヒラク:浅漬けって基本的には、もうすでに味が付いている調味液に野菜を浸して浸透させていって食べるみたいな感じなんだよね。
それに対して古漬けは発酵させながら味を作っていく感じで少し原理が違う。
どっちも美味しいんだけど。
だからスーパーで売っている漬物のかなりの割合、ほぼ過半数は余裕で越えて8割ぐらいはおそらく浅漬。
イッシー:はい。
ヒラク:古漬けは相当少なくてただ日本でもともと作られてたお漬物の大半が古漬けなんだよね。
古漬けのものって今の食品衛生だと菌がいっぱいいると危ないっていう基本的な考え方だから、菌によって旨味を作っているので古漬けは流通しづらいんですよね。
そういうのもあって割合が少ないから、どっちかっていうと漬物って手作りの文化になってしまっているので。
食品的なプレゼンスがあまり高くない(影響力が小さい)ように見えるんだけど、実は昔から日本の食文化を支えてきている深いものだったりしますね。
イッシー:上澤さんのたまり漬けは、古漬けに分類されるっていうことですよね?
上澤:そうですね。
ヒラク:塩蔵から次のステップ行きますよ。
上澤:はい。らっきょうを例にとりますと塩蔵が完了しましたという段階で、まず塩蔵の塩分が凄いしょっぱいんですよ。
イッシー:はい。
上澤:つまり腐らないんだけど、人間も食べれない。
しょっぱ過ぎるので一回水で洗って塩分を若干下げます。
イッシー:塩豚を作るときも、そうしますね。
上澤:そうそう。
その状態から我々はまず甘酢に漬けるんですけど、甘酢も複数種類ご用意がありますという感じで、まず味の薄めのところからスタートしていって。
技術の部分になるから、あんまり言えないところもあるんですけど。
イッシー:はい、言える範囲で。
上澤:薄めの味からだんだん濃いめの味にどんどん入れていくんです。
イッシー:水彩画みたいだ。
上澤:塩もそうなんですけど砂糖も浸透圧が強いから、いきなりらっきょうを濃い所にバーンって入れるとシナシナになるんですよ。
イッシー:そうなんだ。
上澤:野菜がシナシナになっちゃう。
黒豆を煮る時と一緒で。黒豆を煮るときも砂糖を徐々に入れていかないとシワよっちゃうよみたいなのあるじゃないですか?
それと一緒で野菜もそれが大きいので、薄味のところから徐々に徐々に味を入れていく。
ここが結構肝で、そうするとシャキシャキの食感がより増していく。
ヒラク:手間のかかり方、とんでもないですよね!
イッシー:増してる!
上澤:そうですね。
手間もそうだし、後おつゆって一回使ったら原則全部捨てるんで、漬け床を毎回捨てていくからコストが凄くかかるんですよ。
甘酢に数回、漬け床を何回か変えていってこれでよしOKってなったら今度はたまりに入れて。
イッシー:そうか。そこからたまりを入れるのか。
ちなみに塩蔵して水抜きしたものを、そのまま食べても美味しいんですか?
上澤:マニアは美味しいと。
イッシー:マニアは美味しいって!?そういう感じなんだ。
上澤:乳酸発酵の香りがして。
本当に不思議なんですけど、らっきょうって収穫した時はネギのように真っ白なんですよ。
これを塩蔵して3か月・4か月置いておくと琥珀色になってくるんですよ。
イッシー:へぇー、そうなんだ。
上澤:香りはお醤油そのものみたいな、香ばしい香り。
らっきょうのツンツンした辛い成分が、菌の作用によってなのかは分かんないですけど。
イッシー:はい。
上澤:茶色くなるのはメイラード反応だと思いますし、香りがとにかく凄くよくなるんですよ。
だからその状態で食べると、「わぁ、こういうもんなんだ!」というところではありますね。
イッシー:そうなんですね。
上澤:ただ、それはマニア向けで。
イッシー:それで戻して、そこから甘酢漬けにして。
ヒラク:ここまでが、よくカレーの添え物になっている、らっきょうの基本的な味と結構似てますよね。
上澤:そうですね。
ただ一般的には甘酢を数回取り替えるのは、ほぼないです。
手間的なこととか時間的なこととかコスト的なところから。
ヒラク:甘酢漬けの時点で相当手間がかかってくるんですよね?

スーパーにある8割は浅漬け

上澤:最初に決めたい味にボーンと漬けて終わり。
我々の特色を説明するために、一般的にはどう作ってるかを若干説明しないと特色が説明できないのもあるんですけど、一般的には塩漬けまでは一緒でこれを塩抜きします。
それで袋に。塩抜きしたらもうすぐ袋に詰めちゃうんですよ。
一般的な漬物メーカーさんって、そこにおつゆをシュンと入れて、袋をビューンと封して、袋のまま85℃で30分煮ます。
イッシー:煮る?
上澤:お湯でボコボコ煮ます。加熱殺菌ですね。
そうすると袋の中が無菌状態になるから、常温で1年ぐらいの流通が可能になる。
イッシー:なるほど。そうなんだ。
上澤:これが一般的な漬物の作り方。
スーパーで売ってる、いわゆる古漬け商品の漬物の作り方ですね。
ただ、凄くいい技術なんですよ。
イッシー:うんうん。
上澤:工場の中の作業って、野菜洗ってつゆ入れて煮る。
イッシー:シンプルですよね。
上澤:シンプルだし、一日で正直終わる。
後はもうロングのリテール(長期の販売期間)があるんで扱い易いし、コストも下げられる凄くいい技術なんですけど、唯一の欠点があんまり美味くならない。
ヒラク:大問題!
上澤:火が通らない絶妙な温度ではあると思うんですけど、食感や香りがある程度、損なわれてしまうんですよね。
ヒラク:言ってしまえば炒るっていうことだからね、一回。
イッシー:確かに。
上澤:我々の漬物は加熱殺菌工程を一切持ちません。
この漬け替えで漬け床を変えて、味を決めていって最後によしこれでOKってなったら、その状態で袋に詰めて、袋に詰めたらもう速攻で店に出します。
だからリテールの時間がかなり短いということになります。
ヒラク:なので、漬物って一括りに言っても色々な種類があるのが分かったと思ってて、その中でも古漬けの非加熱っていう
漬物の中ではかなり手作りに近いものを扱っているのが上澤さんのところのたまり漬けの特徴ですと。
それが前置きとなって今回ここぐらいまでということで。
次回、上澤さんが取り組んでいたところから
僕たち発酵デパートメントと一緒に取り組みをして生まれていった、らっきょう漬けはどういう背景だったのかっていう話をしたいと思います。
イッシー:では、次回に続きますね。