東京・下北沢の発酵デパートメント様「RADIO #ただいま発酵中Podcast」に出演いたしました。

  • ※出演回は、#128、#129、#130の全3回です。
  • ※リンク先はすべて外部サイトです。

漬物の可能性

漬物とは1年中味わう技術

イッシー:上澤梅太郎商店、上澤佑基さんをゲストにお迎えしたお話。
前回までらっきょうのたまり漬やたまり漬のお話をしてきて、今回は3回目で最終回となりますが、もう少し3人でお話していきたいと思ってます。
ヒラク:3回目は割とフリーキー(マニアック)に上澤さんが今感じている漬物の可能性を聞きたいと思います。
上澤さん凄い研究熱心で順々に研究されてましたね。
イッシー:はい、第2回で熱意を感じました。
ヒラク:上澤さんの熱い想いを感じてるんだけど、まだまだ俺たち実は漬物のポテンシャルがわかってないよなっていうのは結構僕の課題になってて、最近。
どうですかね?
上澤:漬物って旬の味をいかに1年間食べるかと言う技術なので、季節感や旬の味とは対極の概念なんですけど。
イッシー:面白い!そんなこと考えたことなかった。
上澤:なので我々の店って1年中商品のラインナップがほとんど変わらないんですよ。
たとえばお菓子屋さんだと、よく変わるじゃないですか?
クリスマスはクリスマスケーキ、和菓子屋さんだったら、これからはあじさいの花を模したもの、とか。
イッシー:確かにそうですね。
上澤:我々の店は本当にそういうものがないんですよ。
なぜならば漬物とは1年中味わう技術なので。
イッシー:凄くいい話。旬の味を1年中味わうためのものなんだ。

発酵の起源は、酒と漬け物

漬物の可能性と塩分

上澤:だから逆に何か市場価値の可能性があるんじゃないかなっていう感じはしていて、野菜本来の美味さを年間通じて食べたいというのは、人類の欲望的なことですよね。
人類史をとおして、一番の課題って、飢餓に対する恐怖感だったと思うので。
ヒラク:今、漬物に逆風があるとしたら減塩ブームだと思うんだよね。
なるべく塩を取りたくないみたいなことがあって。
漬物ってしょっぱいイメージあるじゃない?
実際しょっぱいんだけど、僕、古い漬物や色んな漬物の文化をリサーチしていくうちに実はもともと漬物ってそんなに塩を使ってなかったんじゃないかって。
話もいっぱい聞くんだよね。実例も見るし。
だから漬物がこれからモダナイズ(現代化)されていく時に必要なのは塩をどう考えるかっていうことなんじゃないかって気がしてるんですよ。最近。
上澤:そうですね。
特に最近注目されている漬物で木曽地方のすんきがあると思うんですけど、塩を全く使わない漬物なんです。
ヒラク:そうそう。
発酵デパートメントの定番で僕が凄く大事にしている、すんきっていうカブの葉っぱを全く塩を使わずに発酵させる酸っぱい旨味がいっぱい詰まったしょっぱさのない漬物。

カブの葉を塩を使わず発酵させる漬物「すんき」

イッシー:この回の第一回で少し話しましたね。
その代わりに圧力をかけるだけで作ってるって。
上澤:コハク酸が凄くリッチなんですよね。
イッシー:コハク酸?
上澤:二枚貝系の旨み成分が、なぜかカブの葉っぱに圧力をかけているだけで出てくるという。
ヤバくないですか?
ヒラク:嘘か詐欺みたい。
イッシー:錬金術だ!
上澤:凄すぎません?
ヒラク:シリーズ漬物の時に改めて話すんだけど塩を使わないと微生物の種類が変わってくるので面白い成分が出てきて。
すんきが一番極端な例なんだけど、関西地方も凄く古い漬物の作り方を見ていると塩分が低いんだよね。
3%だったり、塩水よりちょっと高いか、それぐらいの漬け方もいっぱいあるので、もともとは塩分濃度ってそんなに高くない。
何なら塩って近代になって、ようやく安くなったから。
醤油回の時に放送したんだけど、それまではなるべく使わずに。
どっちかって言うと圧力による酸によって抗菌効果を高めて更に旨味を作っていたのが僕は日本やアジア全体の漬物の原風景かなと思ったりしてるんだよね。
上澤:僕はすんきの存在が現代に残っていることによって、漬物のルーツって実は無塩乳酸発酵にあるんじゃないかと思ったんです。
今おっしゃっていただいた通りのことを最近感じていて、農家さんって大根がいっぱい取れちゃったりすると穴を掘って埋めておくんですよ。
芋も畑の脇に穴を掘って埋めておくと結構もつんですよ。
土によって空気を遮断しているから腐敗が進まない的な、本当に原始的な貯蔵法。
もしかすると猿酒じゃないですけど穴を掘って埋めておくことによって「猿漬物」みたいなものが発生したんじゃないかって思ってるんです。

もうひとつの無縁発酵の起源はアルコール

圧力をかけて抗菌効果を高める

イッシー:猿酒?
ヒラク:猿酒って地面に落ちた果実が勝手に発酵して潰れたぶどうや果実のシュワシュワ発酵したものを猿が食べたり飲んだりして酔っ払うことで、こういうものが発酵の原点なんじゃないかみたいな話が俗説であるっていう話。
そういうものが漬物にもあるんじゃないかっていうことなんだけど、実は僕その実例を見つけたんですよ。この間。
上澤:本当ですか!
ヒラク:マニプル州で。
イッシー:出た!
上澤:インド!
ヒラク:インドのマニプル州で塩が本当になくて。
上澤:山の中なんですか?
ヒラク:そうそう。
山の中でヒマラヤから岩塩が下ってくるのが超貴重品で、丸くきれいに成形してヤスリで磨いて神様にお供えする神事に使うものだから人間が使うものじゃないみたいなレベルなので、お漬物がいっぱいあってマニプルは無塩発酵の聖地だった。
上澤:ヤバい。凄い!
ヒラク:その中で一番衝撃を受けたのは野菜だと筍。
筍を細かくスライスして土の中に埋めて塩をいれないで乳酸発酵させるの。
中国の漬物だとメンマみたいに塩を使うことが多いんだけど使わない。
筍を埋めて圧力を掛ける。重石をして。
上澤:酸っぱいんですか?
ヒラク:酸っぱくない。ソヤシデっていってすごく良くて。
とても小さい若くて柔らかい筍を最初に土の中に埋めて乳酸発酵させて、水分がどんどん上がってくるので浸けて上がってきた液体を取っておいて、大きな筍を漬ける時にその汁を入れて発酵のスターターにして乳酸発酵させるのをずっと永遠に繰り返してるみたいな。
イッシー:凄くないですか!?
上澤:ほぼ、すんきじゃないですか!

多様性があるインドの無塩乳酸発酵

ヒラク:ネパールインドには他にもすんきがあって、グンドゥルックって言ってネパールの呼び方なんだけど、それは全く一緒で菜っ葉。
複数種類あるんだけど菜っ葉みたいなものを刻んで揉んで瓶にギュウギュウに詰めて日向に置いておくんだよね。
イッシー:日向に?
ヒラク:温めるために。
イッシー:悪くなりそうですけど?
ヒラク:悪くなりそうなんだけど日向に置いておいて。
日本だと多分、試さない。光が嫌いなので。
日向に当てると温かくなるから乳酸菌が働いて発酵するんだけど、更に発酵し終わったものの水気を抜いて天日干しにするんだよね。
陰干しか天日干しか、よく分からないけど乾かしてカサカサにして保存食にして、カレーの元に使ったり油と混ぜてアチャールにして。
上澤:それはカツオブシならぬ、「菜節(ナブシ)」ですね!
イッシー:使い方としては?
ヒラク:ナッパブシみたいに使うこともあって。
インド世界って無縁乳酸発酵がたくさんあって。
上澤:そうなんだ!すごく食べてみたいですね。
6月は日光フェアですけど、その後マニプル州フェアを開催しないんですか?笑
ヒラク:マニプル州のプロダクトはカースト的に外に出せないんですよね。
カーストの問題があって。
上澤:そしたら、現地に行くしかないですね。
ヒラク:僕それで今マニプルの村の人たちと交渉を開始してて何とか輸入したいって言って。
上澤:スゴい!
ヒラク:Youのプロダクトをなんとか輸入したいから!
ヒンドゥーイズムとの戦いになるんだけど、無事ヒンドゥー原理主義の人たちとの妥協点を見つけられるかなんだよね。
上澤:そうか。物を海外に出すのがタブー的なことがある?
ヒラク:アウトカーストなので色んな歴史的背景があって、その人たちのプロダクトを外に出せないみたいな問題があるんだよね。
上澤:流通業者が難しいってことか。
イッシー:そのうち、「ラジオただいま発酵中」でも特集しますので。
ヒラク:ただ、砂糖の植民地時代ぶりの凄くハードな話になっていて。
でも無塩乳酸発酵って日本だとすんきだけど可能性があって、塩を全く使わないものもあるし。
塩が少なくても今は発酵させる技術が確立してきてるから、いろいろ作れるじゃないですか?

紀元前から続く牧草の漬物

上澤:そうなのか。何だか夢が広がりますね。本当に。
無塩乳酸発酵で言うと、もう一個僕が気になってるのがサイロなんですよ。
ヒラク:サイロって農家のところで積まれてるもの?
上澤:そう。牛の餌のサイロ。
牧草を穴に入れておいたりサイロ塔に詰めたりして自重で圧力が掛かって凄く酸っぱくなるっていうものですね。
だからインドの山奥のお漬物もありつつ実は世の中に一番広まってる無塩乳酸発酵の技術ってサイロなんじゃないかっていう気がするんですよ。
ヒラク:牛が食べる漬物ってこと?
上澤:そうです。
イッシー:牧草が酸っぱくなって、牛が食べているということですか?
上澤:そうです。
牧草を穴に詰めておくと乳酸発酵して酸っぱくなって、なぜか栄養価がプラスされて健康になるよ的な。
イッシー:そうなんだ。
上澤:無塩乳酸発酵の技術で一番世界中に広まっているサイロって、いつから始まったのかなと思って見てみたら、紀元前八世紀で旧約聖書に出てきてて、これはヤバいなって思って。
イッシー:凄いですね!時間軸。
ヒラク:確かにその時代、塩が凄く貴重だったんだよね?
上澤:そうですよね。
ただ旧約聖書の世界って死海のエリアだから海も多いし、意外に塩があったんじゃないかっていう気もするんですよね。
エジプトとか。
そこで文献が出てきて、「神様は牛に素晴らしい『手入れをされた餌』をあげるように人間にも優しくしてくれる存在ですよ」みたいな話が出てくるんですよ。
その頃からサイロを作ってたんだったら、その時には人間も無塩乳酸発酵漬物を食べてただろうと思うんですよね。
イッシー:凄く原始的ですもんね。自然な形で成り立ちそう。

漬け物のフロンティア

塩味ではなく酸味

ヒラク:漬物=しょっぱい説が覆る。漬物=酸っぱい。
イッシー:裏返していく。
上澤:漬物って塩蔵の技術で塩漬けをすることによって抗菌作用を出してるものですよっていう理解が一般的だとは思うんですけど、実は時代の文脈で塩が簡単に手に入るようになったからできているだけであって。
あとは単純に人間は塩味が大好きだから美味しいというだけで、実は漬物の原点は塩ではないんじゃないか説が今の僕の中でのテーマです。
ヒラク:結局発酵デパートメントとの共同の取り組みでたまり漬を作ってた時に、途中から気付いたのって塩味じゃなくて酸味の意味だったですからね。
上澤:そうですね!
イッシー:面白い。
上澤:結局、塩味がべースにあるのはもちろん一番大事で、塩味が全ての味をブーストする(加速させる)というのが、まずベースにあって、
更に旨味系さっきのコハク酸やイノシン酸・グルタミン酸の旨味をブーストする(引き出す)ものとして有機酸や酢酸、クエン酸だったりの存在があって。
あと乳酸発酵で出てくる乳酸。漬物にはクエン酸や酢もよく使うんです。実は酸味がとても大事。
保存性や旨味、味において大事なんだなということに、発酵デパートメントさんとのプロジェクトで改めて気付くことができた。
ヒラク:これから漬物のフロンティア(開拓最前線)は酸味ですよ。
上澤:そうですね。
ヒラク:熱い。酸味。
上澤:特にたまりも元は味噌だから。
味噌って酸味が実は強いじゃないですか?
一般的にはあんまり意識されてないかもですが。
ヒラク:乳酸発酵をかなり深くしているからね。
上澤:ふと思ったんですけど、味噌も漬物のバリエーション(変種)じゃないかなっていう感じがしてるんですよ。
味噌も麹と大豆の素材と塩を混ぜて上から圧力をかけて、酸素を遮断して味が熟成していくという意味合いにおいては。
日本の味噌って、漬物の一バリエーション(変化)なんじゃないかなという気がしたんですよ。
イッシー:本当だ。
ヒラク:味噌回、醤油回で思い出して欲しいんだけど、豆鼓って、もともと豆の漬物として入って来てるんだよね。
最初調味料として使ってないから。
イッシー:そうだ!
ヒラク:お坊さんがペロペロ舐めてるから。
上澤:寺納豆ですよね?
ヒラク:寺納豆ね。
発酵デパートメントに置いてあった一休寺納豆は漬物だよね。
上澤:僕の子どもが保育園に行きたくないってグズった時に、「忍者の納豆を食べて元気出せ!」って言って寺納豆を渡したんですよ。
そしたら「忍者の納豆だ!やった!」って元気に保育園に行ったんですけど、保育園から電話がかかってきまして
「あなたの家のお子さんが納豆だと言って黒い謎の塊を食べているんですけど大丈夫なものなんでしょうか?どう見ても納豆じゃないんですけど…」
「納豆なんですが、本当に申し訳ありませんでした。」というのが先月発生しました。
イッシー:説明しづらい。
ヒラク:そう考えると魚醤のスタートも元々は魚の漬物なので。
上澤:そうですよね。
ヒラク:だから発酵の起源って二つあって、一個は酒でもう一個は漬物なんだね。
上澤:そんな気がしますね。
東南アジアだとキノコだったり、あと昆虫や小エビもありますもんね。タガメとか。
ああいう食材の塩漬けでペースト状になっているもの。
イッシー:でも漬物の未来を考えているときに原点にヒントがあるって凄く面白いですね。
ヒラク:旧約聖書までいきましたからね。
上澤:文献は旧約聖書で、もっと古いと壁画もあるらしいです。
壁画はナポリの考古学美術館に所蔵されているみたいで、そのナポリの考古学美術館に直接、「サイレージに関する最古の壁画があなたの館に所蔵されているらしいんですけど、どこの地域のどんなところから採取した壁画なんですか?」というお伺いのメールを出したんですよ。
まだ返事がきてない笑
ヒラク:本人もわからないんじゃない?
イッシー:勉強熱心!凄過ぎる。
ヒラク:イッシー、近々漬物シリーズで漬物だけを取り上げるしかない!
イッシー:そうだ。
僕、今日気になったけど、時間も限られてるから聞けなかったこといっぱいありますもん。
ヒラク:リスナーのみんなも漬物ことが気になりまくってると思うので、次の久々の本シリーズは漬物回ですね。
イッシー:よし!
ヒラク:上澤さんにも、いろいろ聞きたいと思いますので、是非シリーズ漬物に協力していただけるとありがたいなと思います。
上澤:僕が知りたいです、まず。勉強させてください。
ヒラク:はい。
ということで3回にわたってお話してきましたけど、上澤梅太郎商店の上澤佑基さんをゲストにお迎えしました。
面白かったですね。
イッシー:面白かったー。上澤さん、どうでした?
上澤:取り留めのない話をさせていただいて、本当に面白いですか?
大丈夫ですか?
イッシー:面白いよ。最高です。
ヒラク:これにて上澤さんのゲスト回を終了したいと思います。
イッシー:はい。
ヒラク:どうも、お疲れさまでした。
上澤:ありがとうございました。
ヒラク:お便り、待ってます。