2021.3.19(金) UNTITLED 2008 Ⅲ
今月8日、銀座と京橋のあいだにある画廊へ行った。柏木弘の最新作はネパールで漉かれた紙によるもので、すべては9枚で一組になっていた。専門筋と思われる人たちの会話から、それらは非常に学術的なものであることがうかがわれた。しかし僕の目的は他にあった。
ようやくひとりになった柏木に、僕はiPhoneに保存した画像を見せた。13年前の作品は、いまだ作者の手元にあるとのことだった。その”UNTITLED 2008 Ⅲ”が欲しい旨は、帰宅してから本人に伝えた。
作品は、壁に掛けやすいよう裏面が調えられた状態で、おととい届いた。添えられた説明文には、制作の過程が詳細に記してあった。
板に綿布を固く張り、幾重にも色の塗られたそれを、今日は隠居へ運んだ。そして床の間に掛けてみた。その玄妙な赤は、僕の感覚からすれば、冬の曇った日にこそ似合う気がする。置いてもせいぜい桜の咲くころまでだろうか。それまでは惜しみつつ、少しずつ楽しもうと考えている。
朝飯 明太子、納豆、温泉玉子、油揚げと小松菜の炊き合わせ、茹でたブロッコリーと生のトマト、ごぼうのたまり漬、メシ、大根の味噌汁
昼飯 ごぼうのたまり漬、塩鮭、明太子、白菜漬けのお茶漬け
晩飯 めかぶの酢の物、白菜漬け、椎茸と青菜と豚肉の鍋、麦焼酎「麦っちょ」(前割のお燗)
2021.3.18(木) 簡単、ズボラ、いい加減
昨年の5月29日より数日おきに、朝食の動画を「梅太郎」の名でTikTokへ上げている。
たとえば九谷焼の絵付師が仕事の動画をウェブ上に上げたとすれば、その筆が細密なほど閲覧数は上がるのではないか。しかし僕の朝食に限っては、その逆の傾向が強い。
「汁飯香の店 隠居うわさわ」の営業日は土、日、月で、家内は6時前後には隠居へ向かう。よってこの3日間に限っては、朝食は自分で用意をする。TikTokで閲覧数が伸びるのは、その土、日、月のお膳であることが多い。つまり僕の作る、簡単、ズボラ、いい加減な朝食である。
これまでいちばん閲覧数が多かったのは昨年8月1日土曜日のそれで、44万8千3百ビュー。それを先月28日日曜日の朝食が抜いてきた。現在の閲覧数は45万6千9百ビューである。
さてこの、2021年2月28日の記録を閲覧数で抜く朝食は、今後、出てくるだろうか。出てくるならどのような朝食か、ということについては想像がつく。これからも土、日、月に限っては、簡単、ズボラ、いい加減を目指していこう。別段、TikTokの閲覧数が欲しいわけではないけれど。
朝飯 紅白なます、納豆、油揚げと小松菜の炊き合わせ、グリーンアスパラガスとスナップエンドウの淡味炊き、明太子、ごぼうのたまり漬、白菜漬け、メシ、揚げ湯波と菠薐草の味噌汁
昼飯 「大貫屋」の塩ちゃんぽん
晩飯 チーズ、TIO PEPE、トマトとレタスのサラダ、2種のパン、帆立貝と海老とマッシュルームのグラタン、Chablis Billaud Simon 2015
2021.3.17(水) 水帳
きのう倉庫の整理をしながら、埃をかぶった木の箱に目がとまった。「寛文六丙午年瀬川村水帳入」の文字が蓋にある。瀬川村とは、日光市今市旧市街から日光街道を遡上して最初の集落にあたる。
「寛文六丙午」の文字を頭に刻んで一旦、倉庫から去る。そして事務室でそれを検索エンジンに入れてみる。西暦1666年、徳川幕府は4代家綱の治世、更には八百屋お七の生年と、googleは教えてくれた。
「へー」と思いながらふたたび倉庫へ戻り、その箱を4階の食堂へ運ぶ。そして太陽光のふんだんに差し込む食卓に置いて、蓋を開けてみる。中には糸で綴じられた文書が収められていた。その表紙には蓋より更に詳しく「下野國日光領瀬川村御検地水帳」の墨跡。
どうやらこれは、瀬川村にある各戸の耕作面積を記したものらしい。しかし悲しいかな僕は古文書を読む教養を持ち合わせない。農業史の先生がいつかこの日記に行き当たれば、そしてこの帳面を検分してくれれば、そのときには何ごとかが解明されるかも知れない。
朝飯 グリーンアスパラガスとスナップエンドウの淡味炊き、紅白なます、大根おろしを添えた鰤の照り焼き、菠薐草のおひたし、白菜漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、揚げ湯波とブロッコリーの味噌汁
昼飯 白菜漬け、油揚げと小松菜の炊き合わせ、塩鰹のふりかけ、塩鮭、ごぼうのたまり漬のお茶漬け
晩飯 キャベツと人参のサラダ、カレーライス、らっきょうのたまり漬を含む三種の薬味、Old Parr(お湯割り)、プリン、Old Parr(生)
2021.3.16(火) 幾とせ耐えて
昔のエレベーターは、降下するとき胸や腰のあたりに何とも言えない違和感を覚えさせた。落下傘を背負って空中を落下するときにも、それとおなじ感じがするものと考えていた。しかしスカイダイビングを実際に経験してみると、そのようなことは一切なく、空を飛んでいる気持ち良さのみがあった。
昨初秋、大森のウィステリアデンタルクリニックで奥歯の神経を抜いた。サトーヒロノブ先生は、神経の奥底の、その先まで特殊な器具で穴を穿った。術後の回復を早めるための措置と、先生からは説明を受けた。二日がかりの完璧な仕事だった。
2018年10月より感じ始めた背中の違和感は、同年の師走に至ってとうとう我慢しきれない痛みに変わった。翌年1月より通い始めた宇都宮のカイロプラクティックでは、背中から始まって肩、膝と、次々に治療をしてもらった。時には「痛いですよ」と事前に知らされながらの施術もあった。「どれくらい痛いですか」と訊くと「骨が折れるときくらい痛いです」と、ワタナベマサヤス先生はこともなげに答えた。
何が言いたいか。
飛んでいる飛行機から飛び降りることも平気なら、歯の奥底まで針を差し込まれることも恐れず、専門家が「骨が折れるくらい」という痛みにも耐えられる。ただただ、血管注射だけが怖い。今日は会社の健康診断にて、そのうちの血液採取にようよう耐えて、通常の業務に復帰する。
昼飯 「笹の」のカレーライス
晩飯 ミネストローネ、2種のパン、茹でたブロッコリーとマッシュドポテトとキャロットラペを添えた豚のソーセージのソテー、おなじく羊のソーセージ、チーズ、Chateau Lalande-Borie 1985、シュークリーム、Old Parr(生)
2021.3.15(月) 危ない兆し
2013年の秋に、自宅を大きく改装した。それまで足の踏み場もないほど溢れていた様々なものを、たとえば箪笥なら中味ごといくつも捨てるような、大胆な整理をした。環境は大きく改善され、とても気持ちの良い住まいになった。建築雑誌やテレビの「お宅訪問」のような番組を見ると、どの家も驚くほど片付いていてモノが無い。「そんな家が果たして現実にあるものだろうか」と疑問に感じていたが、自分の家も、そんな風になってしまった。
そこまで徹底してモノを捨てると、物欲が無くなる。僕も最小限主義者の仲間入りである。しかしそれから何年かが経つと、やはり欲しいものは出てくる。
焼酎は、あらかじめ水と混ぜておく「前割」をすると美味いと、つい数日前に知った。焼酎4、水6の比率で割った焼酎は徳利に入れて燗を付ける。ところで今ある徳利は300ccの容量で、僕の酒量にはちと足りない。最低でも2合は欲しい。
そうしてこれをウェブ上に探すうち「なぜこの壺がこれほどの安値で売られているのか」というものを古美術屋のページに発見する。「隠居の床の間の花瓶よりよほど良いじゃねぇか」と、目が吸い寄せられる。危ない兆しである。
朝飯 こんにゃくの甘辛煮、菠薐草の胡麻和え、生玉子、牛肉のすき焼き風、白菜漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、赤パプリカの味噌汁
昼飯 塩鰹のふりかけ、白菜漬け、ごぼうのたまり漬、塩鮭のお茶漬け
晩飯 菠薐草のおひたし、胡瓜と榎茸の酢の物、南瓜の煮付け、刺身湯波の「日光味噌のたまり浅漬けの素・朝露」かけ、大根と豆腐の味噌汁、大根おろしを添えた鰤の照り焼き、麦焼酎「麦っちょ」(前割のお燗)、苺、シュークリーム、Old Parr(生)
2021.3.14(日) 白梅
上澤梅太郎商店が運営する朝ごはん専門店「汁飯香の店 隠居うわさわ」の営業は、土、日、月の週に3日。金曜日にはその宣伝をfacebookページに上げる。添付する画像がいつも同じでは見る人も面白くないだろう。そう考えて、毎週、新しい画像を得るため隠居へ行く。
日光市今市の、旧市街の標高は400メートル。春の花は、東京にひと月おくれて咲く。きのうは靖国神社の染井吉野が平年より12日も早く開花をしたという。隠居の庭では白梅が、ようやく開き始めた。それにしても、座敷から間近に望めるその枝振りが、大いに悪くない。姿の良さは、生まれながらのものだろうか、あるいは植木屋の仕事によるものだろうか。
きのう列島は大雨に襲われた。その雨が奥日光の上空では雪に変わったらしく、山々はすっかり冬景色に逆戻りをしてしまった。気象予報士は、雨から一転して晴れる今日の花粉の多さを伝えていた。しかし僕の眼球は、それをまったく感じていない。ありがたいと言えばありがたい。
白梅は、お彼岸のころには満開になるだろうか。
朝飯 なめこのたまり炊、ごぼうのたまり漬、塩鮭、塩鰹のふりかけ、白菜漬け、白粥
昼飯 「ふじや」の雷ラーメン
晩飯 鰯の油漬け、白菜と豚肉と春雨の鍋、麦焼酎「麦っちょ」(前割のお燗)
2021.3.13(土) シャチョー
「食品工場が抱える問題のひとつに、床や水路の経年劣化がある。ウチもその例に漏れず、補修を繰り返してきた」と、先月26日の日記に書いた。今日はその先月に続いて2度目の工事が行われる。
朝、7時40分に事務室のシャッターを上げる。「業者の方が見えています」と、真っ先に入ってきたハセガワタツヤ君が言う。その後ろに水色の作業着を着た「シャチョー」が立っていた。その「シャチョー」はまた、僕のことも「シャチョー」と呼ぶ。
子供のころ、僕のオヤジも含めて街の商店主たちが「シャチョー」と互いを呼び交わすことに違和感を覚えていた。そのころ僕の頭に浮かぶ「社長」とは、ダブルブレストの背広を着て葉巻を咥えた恰幅の良い男でなければならなかった。それが大人になってみれば、作業着とユニクロのフリースを着た同士が「シャチョー」である。
その範囲の広さから「果たして今日中に終われるだろうか」と心配された工事は、17時に数十分を残して完了した。機械類や作業台の養生は充分だ。それでもあす出社する製造係は先ず、掃除から仕事を始めることになるだろう。
朝飯 らっきょう、ごぼう、しその実の各たまり漬、メシ、豆腐となめこと揚げ玉と白菜キムチの味噌汁
昼飯 塩鰹のふりかけ、沢庵、白菜漬け、塩鮭、ごぼうのたまり漬のお茶漬け
晩飯 こんにゃくの甘辛煮、白菜漬け、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、生のトマト、鶏とマッシュルームのクリーム煮、鶏の燻製、TIO PEPE、杏仁豆腐、Old Parr(生)
2021.3.12(金) 自動引き落とし
あるとき、会社の口座から自動引き落としされる諸々を精査した。電気料金のひとつに目がとまった。東京電力に電話をして係に来てもらった。そして当該の街灯がどこにあるか調べてもらった。街灯は、どこにも無かった。「以降の請求は止めさせていただきます。ただしこれまでお支払になった分はお返しできません」と、係の人は言った。
午前、今回はじめて届いたという電気料金の振込用紙を持って、ウカジシンイチ春日町1丁目自治会長が会計係の僕を訪ねてきた。用紙には「公衆街路灯A」の「ご使用場所」として「日光市今市9999番(地)」と記してある。googleマップに入れるまでもなく、それは存在しない住所だ。
振込用紙の、0120で始まる「お問い合わせカスタマーセンター」に電話をしてみる。長々とした音声案内が続くばかりで、らちが明かない。検索エンジンに頼って栃木県内のある電話番号を見つける。そこへ電話をするとようやく、人間が出てきた。
その人とのやり取りについては、ウカジ自治会長にLINEで送った。すべて得心がいったら、そのときにはこの新しく発生した支払いを、現在の自動引き落としに統合しようと思う。
朝飯 納豆、大根と薩摩揚げの炊き合わせ、揚げ湯波と小松菜の淡味炊き、牛蒡と蓮根と人参の炊き合わせ、じゃこ、ごぼうのたまり漬、沢庵、白菜漬け、メシ、揚げ湯波と蕪と三つ葉の味噌汁
昼飯 揚げ玉、白菜漬け、沢庵、塩鮭、ごぼうのたまり漬のお茶漬け
晩飯 マカロニサラダ、TIO PEPE、2種のパン、鶏とマッシュルームのクリーム煮、Petit Chablis Billaud Simon 2016、苺
2021.3.11(木) どちらが痛いか
血圧や血液について、ふた月に1度ほどの頻度で医師の診察を受けている。今朝、その待ち時間中に「あなたはいつワクチン接種を受けられる?」と、iPhoneに文字が浮かんだ。怪しげなサイトではないことを確認する。そして生まれた年や月、住んでいる場所を入れていく。AIが予想をするのだというその時期は、ややあって「約2ヶ月以内」と出た。2ヶ月以内といえば、黄金週間のまっただ中。「そりゃぁ、いくら何でも無理だろう」と、勝手に判断をする。
ところで河野太郎新型コロナウイルスワクチン接種担当大臣は当初、ワクチンを受けたことを証明する書類は発行しないとしていた。「まるで江戸時代だ」と、僕は一驚を喫した。それが本日午後のニュースによれば「証明書の必要性が国際的に高まってきた場合には、新たな仕組みによる発行を検討する」と一歩、前へ進んだらしい。
それにしても、新型コロナウイルスのワクチン接種を望む人が、日本では半数に達しないという。更には、接種を望まない人が全体の4分の1もいるという。「コロナの注射は痛い」などと、その「副反応」が話題になっている。
僕は過去にコレラの予防注射を4回、受けている。受けてから数日のあいだ、二の腕に痛みが残った。コレラとコロナのどちらが痛いか、今は楽しみにしているところだ。
朝飯 大根と薩摩揚げの炊き合わせ、独活と菊芋の淡味炊き、納豆、トマトとブロッコリーのソテーを添えた目玉焼き、ごぼうのたまり漬、メシ、なめこの味噌汁
昼飯 「スシロー」のあれや、これや、それや
晩飯 コーンポタージュ、グリーンアスパラガスとベーコンのソテー、コロッケ、刻みキャベツと生のトマトを添えた牡蠣フライ、Petit Chablis Billaud Simon 2016、プリン、Old Parr(生)
2021.3.10(水) あと10日
きのうの食卓に上がった鯛は大きく、半身をこなすのがようやくだった。食後、その尻尾を竹箸で折り取り、塩を洗い流して鍋の水に沈ませた。今朝はそのだしを味噌汁にした。美味くないわけがない。
毎朝の味噌汁のだしは、鰯の煮干しで引いている。鯛の煮干しも、実は存在する。あるいはいろいろな煮干しを用意して、気分や具によって使い分ける手もある。しかしまぁ、当面は今のままでいこう。
ところで毎年、冬の、閉ざされた、あるいは雌伏ともいうべき雰囲気が、いきなり春の華やかさに変わるときがある。それは僕の場合、立春でも啓蟄でもなく、やはり春分だろうな、と思う。その春分が間近になったこの頃は、なぜか取材の依頼が増えてきた。
取材には大抵、長男がお応えをしている。しかし今週土曜日のそれについては僕が対応をするよう、今日は事務机の上に覚え書きが置かれていた。ダウンベストは、いつ脱ごうか。雪はもう降るまいと決めつけているところが僕には、ある。昨年のことを考えれば、いまだ油断はできない。
朝飯 納豆、独活と菊芋の淡味炊き、蓮根と人参のきんぴら、大根と薩摩揚げの炊き合わせ、菠薐草のおひたし、おでんの名残の玉子とこんにゃく、白菜漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、豆腐と菠薐草の味噌汁
昼飯 沢庵、牛肉の甘辛煮、ごぼうのたまり漬、塩鮭のお茶漬け
晩飯 マカロニサラダ、白菜漬け、牡蠣とマッシュルームのアヒージョ、鯛のだしによる湯豆腐、鯛飯、麦焼酎「麦っちょ」(前割のお燗)、カステラ、Old Parr(生)