2020.4.28(火) 今の自分にできるのは
狩撫麻礼原作、たなか亜希夫作画の「迷走王ボーダー」は、いつまでも懐かしく思い出す漫画だ。物語は、荒涼とした砂漠の砂嵐の中を、ラクダに乗ったふたりの男が旅していく場面から始まる。
おととし白内障の手術を受けた。その、半年に1度の定期検診の日はとうに過ぎた。東武日光線を南下して県境を越える気にならないのだ。今月の9日には、パンフレットやウェブショップのデザインを担当してくれているふたりが東京から来る予定だった。しかし僕の好きなこの仕事は、先方が遠慮をする形にて、後日に延期をされた。テレビが報道する、人通りの絶えた東京の盛り場を目の当たりにするにつけ「迷走王ボーダー」の、砂漠と砂嵐がよみがえる。
「人と人との接触を絶つことが、推奨から強制に移りつつある。これまで良しとされてきた人と人との触れ合いが、むしろ忌避されている。そのような現状を目のあたりにするにつけ、現在のコロナ禍が去れば、人はこれまで以上に『リアル』の素晴らしさを実感するだろうことを自分は確信している」という内容のメールを、きのう僕に書き送ってきた言論人がいる。まこと、ここには上げず、自分だけのものとして仕舞っておきたいような内容だ。
「アフターコロナには、まったく違った世界が現出する」と言う人は多い。しかしその世界を具体的に示す人は少ない。
「そういうお前はどうなんだ」と問われれば「どうなんですかねー」と言葉を濁すしか、今の自分にはできない。今の自分にできるのは、ウチの味噌や「たまり」や漬物に日光の農産物を加えた商品のための、朝どれ野菜を農家や直売所に仕入れに行くこと、および「一汁五菜弁当」の配達くらいのところである。
朝飯 菠薐草のおひたし、納豆、ウインナーソーセージとピーマンのソテー、揚げ玉と長葱を薬味にした冷や奴、ごぼうのたまり漬、メシ、キャベツの味噌汁
昼飯 バターと杏のジャムとらっきょうのたまり漬のトースト、ホットミルク
晩飯 トマトとレタスと浅蜊と夏みかんのサラダ、鳥レバのコンフィ、ポトフ、パン、Petit Chablis Billaud Simon 2016
2020.4.27(月) 最後の晩餐
オフクロとの最後の晩飯は、メンチカツとスパゲティサラダをおかずに炊きたてのメシを食べる、というものだった。「ワインは」と訊いたら「今夜はいいや」と遠慮をした。そうしてオフクロは翌日の昼に亡くなった。世の大半の人の最後の「糧」は、静脈に差し込まれた針からの点滴ではないか。こと最後の晩餐においては、オフクロも「以て瞑すべし」だと思う。
僕は、最後の晩餐にはビーフステーキが食べたい。きのうのそれは、正に僕ごのみの野蛮さだった。「こんなものを食ったら、眠っているあいだにポックリ死んでしまうのではないか」とさえ考えた。しかし今朝は普段どおりに目が覚めた。ちなみに僕は八代目橘家圓蔵とおなじく「安いお肉でいいんです」派である。
ところで「人はパンのみにて生くるにあらず」ということばがある。意味は分かるけれど、僕は食べ物のことばかりを考えている。「一汁五菜弁当」の明日の仕込みに必要な鶏肉を、長男は町内の精肉店「鳥秀」に注文した。それを追いかけるようにして僕も電話をし、冷凍する前の鳥レバ500グラムを個人用として発注する。
朝飯 菠薐草のおひたし、ベーコンとピーマンのソテー、ごぼうのたまり漬、メシ、若布とズッキーニの味噌汁
昼飯 バターと杏のジャムとらっきょうのたまり漬のトースト、ホットミルク
晩飯 冷やしトマト、皮蛋、ハムとキャベツのサラダ、ごぼうのたまり漬、「大七酒造」の「皆伝純米吟醸」(燗)
2020.4.26(日) 知らないあいだに
このところ、もっとも多いお問い合わせは「お店、やってますか」というものだ。何しろ、あの三越や伊勢丹、松屋のような大百貨店が「当面のあいだ」という、期限を設けない形で休業中である。きのう日光の旧市街に出かけた人の話によれば、東武日光駅から神橋までの2キロのあいだに、歩いている「地元の人でなさそうな人」は、たったのふたりだったという。「お店、やってますか」の電話も「むべなるかな」だ。
そのようなお問い合わせに挟まれるようにして「汁飯香の店 隠居うわさわ」の「一汁五菜弁当」のご予約が入る。中には、おとといの新聞折り込みチラシなど配られようもない宇都宮や鹿沼からの電話もあり、不思議に感じた。そうしたところ「新聞に載ってました」と、事務係のツブクユキさんが教えてくれた。きのうの下野新聞を第1面からめくっていくと、その記事は第8面「とちぎ経済」の片隅に、しかしカラー写真と共にあった。とても有り難い。
さて、そうするうちにも弁当のご予約は入り続け、今週水曜日までの分は、すべて予定数を満たしてしまった。そして来月2日の土曜日から6日の水曜日までの「2回転目」も、日によっては「残り5食」のところまで表に正の字が並んだ。
全国に拡大された新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言は、果たして最初に切られた期限である来月6日に解除されるのか、それとも延長されるのか。延長されれば「隠居うわさわ」の営業自粛も、更に続けることになるだろう。その場合には、弁当の宅配と店頭お渡しは、どうするか。
4時起きで弁当の準備に当たっている家内のために、夜は長男がステーキを焼いた。
朝飯 揚げ湯波、納豆、唐辛子の味噌炒り、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、梅干し、ごぼうのたまり漬によるお茶漬け
昼飯 ラーメン
晩飯 トマトとレタスのサラダ、2種の茸とブロッコリーの乾煎りとじゃがいものソテーを添えた、たまり漬「鬼おろしにんにく」と「刻みザクザク生姜」によるソースで食べるビーフステーキ、San Pedro Castillo de Molina Cabernet Sauvignon 2017、“LE COFFRET”のフルーツケーキ、Old Parr(生)
2020.4.25(土) とにかくそれが乾く前に
物音に気づいて目を覚ます。時刻は4時33分。起きて食堂へ行くと、家内は朝食を終えようとしていた。「一汁五菜弁当」を作るための早起きである。
午前、事務係のカワタユキさんが発送伝票を手に製造現場へ行った、その間隙を突くようにして電話が鳴る。ご近所から、明日の昼に弁当11食を届けるようにとのご予約をいただく。その受話器を置いた途端、また電話が鳴る。こちらはおなじく明日に3食のご予約。
事務室の壁には、弁当の日別の予約数の、正の字で書かれた表が貼ってある。表は、僕の席からもっとも遠いところにある。今しがた承った2件のご予約を、その表に近づき記入しようとして、既にして升目をはみ出してしまうことに気づく。
「いただいたご予約が知らないあいだに限定数を超えないよう、気を引き締めて、5月6日までの弁当業務に当たっていきたい」と、きのうの日記には書いた。その舌の根というか、筆の先というか、とにかくそれが乾く前に、いわゆる”overbooking”をやらかしてしまった。そうするうち来週火曜日の空白も、また正の字で満たされた。
「汁飯香の店 隠居うわさわ」の一汁五菜膳を小さな箱に凝縮した「一汁五菜弁当」は、今日からの5日間、および5月2日からの5日間に、お作りをする。詳しくは、今月21日の日記をご覧ください。
朝飯 納豆、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、炒り豆腐、生玉子、ごぼうのたまり漬、メシ、3種の葱の味噌汁
昼飯 鬼怒川の「カミーノ」のテイクアウトのピッツァ、ソーダ水
晩飯 バンブー、らっきょうのたまり漬、鶏の唐揚げとレタスとトマトのサラダ、トマトのスパゲティ、飲みさしの2種の白ワイン
2020.4.24(金) 「一汁五菜弁当」の新聞折り込み広告
小学生のころ、元旦には友だちからの年賀状がはやく見たくて、雑煮を食べながらも気が急いた。今朝は、そのときとおなじような気持ちで外へ出て、事務室の外の新聞受けから新聞2紙を引き抜いた。それを手に4階へもどり、そのうちの下野新聞を食卓に開く。金曜日に折り込まれる広告は、週の前半のそれにくらべて多い。それらの中に「汁飯香の店 隠居うわさわ」の「一汁五菜弁当」のチラシを探す。
「汁飯香の店 隠居うわさわ」は、僅々9日間の営業日を以て、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、営業を自粛することとした。営業は自粛中でも、この店のことは、どうにかして皆様にお伝えをし続けたい。そうして考えたのが「一汁五菜弁当」であり、今朝の折り込み広告だった。
開店して間もなく「新聞で見た」と、メモを手に近所の方が、弁当の予約に来てくださった。即、事務室の壁に貼った予約票に、そのお客様の分を正の字で加える。「一汁五菜弁当」については、数日前よりこの日記やfacebookに書き、そちらをご覧になっての予約も入り続けている。
いただいたご予約が知らないあいだに限定数を超えないよう、また宅配においては、お客様が指定された時間を違えないよう、気を引き締めて、5月6日までの弁当業務に当たっていきたい。
朝飯 納豆、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、トマトのスクランブルドエッグ、炒り豆腐、牛肉と玉葱のすき焼き風、ごぼうのたまり漬、メシ、筍と若布と万能葱の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 揚げ湯波の餡かけ、鶏もも肉の「日光味噌辛ひしお」炒め、菠薐草の胡麻和え、ごぼうのたまり漬、うずら豆、麦焼酎「むぎっちょ」(お湯割り)、“Chez Akabane”のフルーツケーキ、Old Parr(生)
2020.4.23(木) これからしばらく木曜日は
「経営者側も労力の一端を担いながら」と、きのうの日記に書いた。週7日のうち木曜日は販売係の出勤を停止し、代わりに僕や家内や長男が店に立つ、というのも、そのひとつだ。僕は、2ヶ月に1度ほどの定期通院が10時30分からある。そのため午前中のほとんどは、家内に店に立ってもらうことにした。
通院は、血圧と高脂血を監視するためのものだ。もちろん毎回、血圧を測られる。家でのそれより病院で測られる血圧の方が高くなる現象を「白衣高血圧」という。医師や看護師に面と向かうことの緊張が、血圧を高めるらしい。僕はそのまったく逆で、血圧は、家で自分で計るより病院で計られる方が、よほど低い。今日のそれは上が110台、下は60台だった。
家内が昼食を摂っている13時30分からの1時間は、長男と店に立つ。そのあいだにも、結構な数のお客様に恵まれる。接客中は、ゴム手袋をしている。しかし桐箱を小風呂敷で包む「たまてばこ」だけは、手袋を嵌めた手では、扱いが難しかった。
来週の木曜日は、社員に評判の良い、医療用の手袋に変えてみようと思う。
朝飯 炒り豆腐、納豆、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、牛肉と玉葱のすき焼き風、生のトマト、ごぼうのたまり漬、メシ、若布とズッキーニの味噌汁
昼飯 パクチー煮込みうどん
晩飯 トマトとベイジルのサラダ、コーンポタージュ、茹でたブロッコリーと焼いた椎茸を添えた鶏もも肉のソテートマトソース、San Pedro Castillo de Molina Chardonnay 2018、“Chez Akabane”のフルーツケーキ、Old Parr(生)
2020.4.22(水) 日光の産品を集めて
社内各部門の主任を集めた場長会議を、月に1度の頻度で開いている。しかし今月は、予定していた13日のそれ以外にも、7都府県に緊急事態宣言の発令された7日や、その宣言が全国に拡大された直後の17日、続いて今日も、臨時のそれを行った。
関東の一都六県の中では、我が栃木県の感染者数は、いまだ少ない。それをできるだけ維持するための努力、協力は、県民として怠るわけにはいかない。飲食事業の「汁飯香の店 隠居うわさわ」は、緊急事態宣言の期限である5月6日までの営業を自粛した。本店は製造と販売と出荷を続けつつ、出勤者数は半分にすることを、会議では改めて確認し合った。
我々の仕事は味噌と醤油と漬物を作って売ることだ。この業態においては、自宅と会社をコンピュータで繋いでウンヌン、ということは、ほぼ不可能だ。そのような中で出勤者数を半分にするのは、楽なことではない。18日の日記にも書いた、日光の産品を集めた商品が、お陰様でご好評をいただいている。あるいは、平時より忙しい卸先様もある。
せいぜい工夫をしながら、経営者側も労力の一端を担いながら、日々を乗り越えていきたい。
朝飯 揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、若竹煮、大根おろしを添えた油揚げの網焼き、納豆、炒り豆腐、鮭の焼き漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、大根と若布の味噌汁
昼飯 「コスモス」のデミグラハンバーグ弁当
晩飯 茹でたグリーンアスパラガス、苺とベビーリーフのサラダ、ユミテマサミさんのトマトやオグラカスミさんのズッキーニなどによるスパゲティ、San Pedro Castillo de Molina Sauvignon Blanc 2018
2020.4.21(火) 「隠居うわさわ」の一汁五菜弁当
先月28日に開店した「汁飯香の店 隠居うわさわ」は、土日月の週に3日の営業。それを2週こなしたところで、東京をはじめとする7つの都府県に緊急事態宣言が出された。そして3週目を乗り越えた3日後の16日夜には、それが全国に拡大をされた。これを受けて「隠居うわさわ」は、この宣言のとりあえずの期限である5月6日までの営業を自粛することとした。
営業は自粛をしても、始まったばかりの店のことは、どうにかして皆様にお伝えをし続けたい。そう考えて今週末からの、弁当の宅配を決めた。「汁飯香の店 隠居うわさわ」の目玉は一汁五菜膳。それを、2寸8分と4寸8部の矩形の中に凝縮するのだ。味噌汁は、日光味噌と日光湯波によるフリーズドライ味噌汁をお付けする。
お届け日は、今月25日(土)から29日(水)までの5日間、および5月2日(土)から6日(水)までの5日間。お届けの範囲は、上澤梅太郎商店から半径1キロ以内。お届け時間は10時30分から12時および12時30分から14時30分の2部制。価格は税込み1,000円で、ふたつ目からは800円。店頭でのお受け取りも800円。前日の15時までに上澤梅太郎商店まで電話0288-21-0002(朝8時30分~)でご予約をいただければ、1日に30食の限定で、ご依頼にお応えをする。
なお、現在の厳しい環境下で医療に従事される方からのご注文、かつ病院様までお届けをする場合には、代金は無料とさせていただきます。
朝飯 飛竜頭と大根の炊き合わせ、菠薐草の胡麻和え、納豆、牛蒡と人参のきんぴら、若竹煮、ごぼうのたまり漬、胡瓜のぬか漬け、メシ、筍と若布と万能葱の味噌汁
昼飯 「やぶ定」の割子
晩飯 牛肉と玉葱のすき焼き風、じゃがいもと胡瓜のサラダ、炒り豆腐、鮭の焼き漬け、らっきょうのたまり漬、「大七酒造」の「皆伝純米吟醸」(冷や)
2020.4.20(月) 精密な手順
鳥の啼く声に気づいて食器棚の時計を見る。時刻は4時25分。きのうは4時27分だった。
鳥は、雨の朝には啼かない。鳥の生態に詳しい人がいれば、いちどそのあたりについて訊いてみたい。もっとも「詳しい人」というのは得てして、自分の専門分野について訊かれると得々として微に入り細を穿ち、いつまでも話が終わらない。よって当方の疑問は晴れないばかりか、しまいには辟易することも珍しくない。教えることの上手な人とは、ことによると省略の上手な人かも知れない。
朝の、社員との報告や連絡や相談が一段落したところで4階に上がる。そして持参したコンピュータを食堂の丸テーブルに開く。季節のご挨拶をお送りするお客様を顧客名簿から特定する仕事には、精密な手順が必要だ。人が来たり電話のかかる事務室では到底、できない。今日は静かな環境にいても途中でひっかかり、最初からし直してようやく、事務係に手渡せる形になった。
挨拶文の9割は僕が書いた。あとは長男が仕上げてくれるだろう。いまだ寒い日が続き、僕はダウンベストが手放せない。
朝飯 菠薐草のおひたし、納豆、飛竜頭と大根の炊き合わせ、牛蒡と人参のきんぴら、生玉子、ごぼうのたまり漬、メシ、揚げ湯波とズッキーニの味噌汁
昼飯 「大貫屋」の味噌ラーメン
晩飯 筍の若竹煮、ズッキーニのオリーブオイル焼き、厚焼き玉子、鶏の唐揚げ、ごぼうのたまり漬、麦焼酎「むぎっちょ」(ソーダ割り)
2020.4.19(日) 「八重のシダレ」は真っ盛り
昨年の10月には、外食による昼食が18回に及んだ。これを反省し、11月18日の「大貫屋」のチャーハンを最後として、出張、会合、会食、市外への通院など、やむを得ない場合を除いて昼の外食は止めた。新型コロナウイルスの感染拡大により「不要不急の外出は避けよ」と国や県からうながされる以前から、僕の「家ごもり」や「会社ごもり」は始まっていた。しかし人と会わなければ「生の情報」は得づらい。
そう考えて今日の昼は、ウチから徒歩で数分の蕎麦屋「やぶ定」へ出かけた。そして店主のワガツマカズヨシさんと、10分ほど立ち話をした。顔も、また知識の範囲も広いワガツマさんの話は面白く、刺激的だ。
夜はフランス料理の”Finbec Naoto”に出かけた。平時とは異なって、メニュは絞られていた。しかしここでは何を食べても美味いから、痛痒はいささかも感じない。
“Finbec Naoto”では、希望をすれば料理の終盤に、口直しのカレーライスを追加料金なしで出してくれる。その上出来のルーを、今なら冷凍で持ち帰ることができる。僕もまたそれを包んでもらったことは、言うまでもない。
朝飯 きのうのキムチ鍋の残りのぶっかけ飯、らっきょうのたまり漬、ごぼうのたまり漬
昼飯 「やぶ定」のカレー南蛮蕎麦
晩飯 “Finbec Naoto”の其の一、其の二、其の三、其の四、其の五、其の六、其の七、ブルゴーニュのそれほど高くない赤ワイン







































