2025.10.5 (日) タイ日記(11日目)
最初に目を覚ましたのは、きのうとほぼおなじ0時37分。次は、家とクルマの鍵を見失って焦燥する夢を見ながら目を覚ます。時刻は4時35分になっていた。きのうの夜にビールを飲んだあたりから、からだも気力も復活をしたらしい。いと有り難し。レイトチェックアウトの予約もできて、気分の余裕も充分である。おまけに朝から晴れている。気温は暑くもなく、また寒くもない。
きのうの朝とは異なって、すぐに起きて、きのうの日記に取りかかる。これを完成させて公開したらひと休み。ベランダからは、隣のレストランの、白と紅のリラワディが目に鮮やかだ。ちなみに四日前までいたウドンタニーでは、この花を、ラオス語を用いて「ツァンパー」と呼ぶ。だからと言っては何だけれど、国境のちかくは色々と面白いのだ。
時計が8時を過ぎたころを見計らって外へ出る。日曜日でも、soi8には様々な屋台が店を開いている。そのままスクムビットの大通りに出て、しばしそのあたりを散歩する。そしてまたsoi8に戻ってきて、ホテルに最もちかい屋台で朝食を摂ることにする。僕の注文をこなしつつ「唐辛子は入れても大丈夫?」と身振りで問うたオネーサンには、いつものとおり頷いた。
ことし2月のチェンライでは、多分、タイ料理を食べ続けたことによるのだろう、胃腸の具合をおかしくした。それが分かっていながら「辛さはどうしますか」と訊かれて「普通でお願いします」とか、あるいは今朝のように、唐辛子をタイ人のそれ並に加えることに首を縦に振ってしまう。これはやはり、見栄による自動反応なのだろうか。
チェックアウトの時間が通常の正午から18時まで延びると、荷作りに向かう気持ちに多大な余裕が生じる。大きな荷物を嫌う僕は、特に必要のない限り、機内持込サイズのスーツケースを使う。これに社員への土産が収まるか、というのがひとつの勝負なのだ。そして荷作りは数十分で完了した。
スイミングプールの水は二日目から綺麗になったものの、なぜか泳ぐ気にはならなかった。更に今日は最終日のため、水着は濡らしたくないどころか汗に湿らせることさえ避けたい。ベランダから見おろすsoi8は雨季の南国にふさわしく、いつの間に濡れたかと思えば、また乾くことを繰り返している。
バンコクに入った初日には、スクムビットの大通りからsoi11に入ってすぐの左側で客待ちをするモタサイを使ってナナチャーンの船着場まで行った。その際、左手に木造の、洒落た植民地様式のレストランを横目で見て「あぁ、これが有名なヘミングウェイか」と記憶に留めた。
14時を10分ほど回ったところでようよう、本日二回目の外出をする。大通りから随分と歩くかと思われた「ヘミングウェイ」には、この通りの左右にある様々な店やホテルが歩く者を飽きさせないこともあって、意外や早く着いた。
「お席は外になさいますか、それとも中になさいますか」と責任者らしいオネーサンに訊かれれば、ほぼ反射的に「外」と答えてしまう。そして白人に合わせたものか、木製の、とても高い椅子に、勢いをつけて上がる。そして先ずはグラスの赤ワインを注文する。
この、カベルネソービニョンよりメルローを強く感じるワインが中々美味い。周囲を見まわせば、メニュに”Sunday Grill”と載っているものだろう、丸鶏の網焼きを食べている人たちがちらほらいる。しかし僕にそれは無理だ。僕は三段ほど上がったテラスで待機するウェイトレスを呼び、チーズケーキを追加した。
チョコレートソースをふんだんにかけ回されたチーズケーキは、やはり白人向けの大きさなのだろう、カロリーの固まりだった。これをやっつけるために赤ワインをお代わりする。
そのチョコレートソースを垂らさないよう細心の注意を払いつつ「権力者と愚か者」のページを繰る。フィナンシャル・タイムスのかつての編集長が日記に書いた2015年から2016年にかけての米国と英国を、今年の日本はなぞっている。
ところで先月26日の朝、朝食を摂る僕のかたわらにあったこの本について「訳もよろしいですか」と訊いてきた白人のオジーサンに「悪くないです」と僕は答えた。しかし460ページの
……
ホタテのカルパッチョに続き、仔牛のカツレツを、マス・シャンパーとシャトー・ロスピタレ・ド・ガザンのグラスワインで流し込みながら…」
……
の「流し込みながら」はいけない。戦国の武将や江戸の駕籠かきが汁かけメシを掻き込んでいるわけではないのだ。ちなみにおなじ表現は520ページにも再出をする。
それはさておき、日本人にとっては巨大なチーズケーキと二杯の軽くないワインをこなした僕は、先ほどとは異なったウェイトレスに勘定を頼んだ。いまだ充分に若い彼女は何ごとか言葉を発しつつ右の人差し指一本を立てた。外の席はsoi11を往来するモタサイやトゥクトゥク、また人の声で充分にうるさい。よって彼女の言ったことを理解しないまま、僕は頷いた。
奧から戻ってきた彼女は三杯目の赤ワインと共に、当たり前のことだが、それを加えた請求書をテーブルに載せた。果たして僕は、空港まで無事に辿り着くことができるだろうか。
部屋に戻ったのは16時5分。シャワーを浴びる。シャワーの後は服は着ず、腰にタオルを巻き、もう一枚のタオルは上半身に巻いて、それを部屋着にする。そしてiPhoneに17時30分のタイマーを設定し、ベッドに仰向けになる。夕刻の雨は、幸いにも降ってこない。
17:58 ホテルをチェックアウトする。”I’m going out”と伝えたときにレセプションのオバチャンから返った問いをここに書けば日記が長くなるから、今日のところは割愛をする。
18:05 BTSスクムビット線の車両がナナを発。
18:15 その車両がパヤタイに着。
18:28 ARLの車両がパヤタイを発。北側に見える高速道路は、順調に流れている。
18:57 その車両が終点のスワンナプーム空港に着。
それにしても、タイの駅の券売機には、硬貨のみを受けつけるものと紙幣のみを受けつけるものが混在して、使いやすくない。自動改札機には「故障中」を示す”Out of Business”の紙を貼られたものが、毎日、あちらこちらの駅に目立つ。「日本の技術を導入してくれていたら」と、思わずにはいられない。
酔っているから早めの行動を心がけた今日は、時間にとても余裕がある。ARLの改札ちかくの、先月25日にも使った両替所の円とタイバーツの交換率は、1万円あたり2,165バーツだった。
19:06 出発階の四階に上がり、タイ航空のポロシャツを着たオネーサンに手伝ってもらいつつチェックインを完了。オネーサンはこの単純作業ばかりをしてるから、当方への質問と、タッチパネルに触れる手の動きは素早い。「荷物に危険物は含まれていませんか」と訊かれたものとばかり思って”No”と答えたときのタッチパネルの表示は「預け入れ荷物はありますか」の英文だったらしい。
「あ、荷物、ありました、これ」とスーツケースを指すと、オネーサンは「なによー」という感じの仏頂面で振り出しに戻り、おなじ作業を繰り返した。「タイは微笑みの国」などと耳にしても、あまり真に受けないことが肝要である。
19:08 オネーサンがスーツケースに巻いてくれたバーコードを、こちらはにこやかなタイ航空の係が読み取って、荷物の預け入れを完了。
ここで身軽になって、今度はエスカレーターで一階へ降りる。そして8番出口ちかくの”MAGIC food point”に入る。こちらは、十数年前までは空港職員専用の感があり、人もまばらだった。しかし現在は、団体では席の確保も難しい混み具合になっている。ここでカオマンガイによる夕食および時間調整をしながら缶ビール2本を飲む。ちなみにカオマンガイは「茹でと揚げの相盛り」が80バーツ、シンハビールの350cc缶は55バーツ、チャンビールの350cc缶は45バーツだった。
20:40 “MAGIC food point”を出てふたたび四階へ上がる。
20:51 保安検査場を通過。
20:54 出国審査場を通過。
チェックインが早すぎたためか、僕の搭乗券に搭乗ゲートは印刷されていなかった。その場所を電光掲示板に探してS116Aの番号を知る。
21:03 サテライトターミナルへ向けてシャトルトレインが発車。
21:05 その車両がサテライトターミナルに着。
アルミニウムの帯を編んで作ったようなの巨象の右手にある案内所でミラクルラウンジの場所を訊く。先月19日のウドンタニーのオネーサンは”Down stair”だったが、今日のオネーサンは”Up stair”と、これまたひと言だけ答えた。巨象のはす向かいのエスカレーターで上階へ上がるとしかし、広い空間のあるばかりだ。ラウンジは左か、はたまた右か。「案内の親切さは、日本人が最高だわな。しかし日本人は、英語に関しては、あまり得意ではないわな」などと考えつつ勘を頼りに右へ進む。
しばらく往くと左手にミラクルラウンジの”First Class”があったから「ここはオレの来るところではないわな」と、更に進む。すると突き当たりにおなじミラクルラウンジの”Business Class”があって、こちらには見覚えがあった。
楽天のゴールドカードを持っていれば誰でも入れるそのラウンジの受付に、会員のQRコードをスマートフォンでで見せて入場する。しばらく前にカオマンガイとビールを腹に入れているから、ここでは水しか飲めない。そして「そうか、時間を調整するなら、あそこよりここだったな、無料だし」と気づいても、もう遅い。時刻は21時16分。搭乗時間は22時15分のため、22時5分のアラームをスマートフォンに設定する。そしてシャワー室でパタゴニアの南洋に特化したシャツを脱ぎ、来たときとおなじ長袖シャツにカーディガン、そこに更にパタゴニアのウインドブレーカーを重ねる。
22:06 ミラクルラウンジを去る。
22:10 S116Aゲートに達する。
22:17 搭乗開始。
22:32 右列最後尾通路側の席に着く。
23:24 うとうととするうち、Boeing777-300ER(77B)を機材とするTG682は、定刻に39分おくれてスワンナプーム空港を離陸。
朝飯 “Stable Lodge”のちかくに店を出した屋台のパッガパオムーカイダーオ
昼飯 “Hemingway”のブラウニーチーズケーキ、赤のハウスワイン
晩飯 “MAGIC food point”のカオマンガイトムトードパッソム、シンハビール、チャンビール