2025.5.15 (木) タイ日記(4日目)
南の国では、日当たりの良い部屋は、却って嫌われる。僕のいる1108号室の窓は西を向いている。その西の空には傘をまとっているものの、月が見えている。「今日の天気は、いくらかは良くなるだろうか」と期待をした瞬間、雷光が走る。
旅に出て3日目ともなれば、また僕は観光などはしないから、特筆するようなことは少なくなってくる。そのお陰できのうの日記は朝食の前に書き終えた。
朝食の会場へ向かうには服を着る必要がある。昨夜はシャワーを浴びなかった。新しいシャツに袖を通す前にはからだを洗っておきたい。よってシャワー室に入るも、今日も水は熱くならない。仕方なく、ぬるま湯にはほど遠い水を全身に浴びつつ「インドの安宿でもあるめぇになぁ」と、バックパッカーをしていたころのことを思い出す。
さて今日は洗濯の日にて、袋に集めておいた5バーツ硬貨10枚、1バーツ硬貨10枚、それに100バーツ紙幣1枚を手にフロントに降りる。そしてそれらを10バーツ硬貨16枚に替えてもらう。フロントのオネーサンは、10バーツ硬貨を10枚と6枚に分けて、それぞれをセロテープで巻いて渡してくれた。
部屋に戻り、日曜日に家を出てから昨日までの洗濯物をクローゼットの引き出しから出し、IKEAのトートバッグに入れる。9階の洗濯室の、液体の洗剤と柔軟剤はカゴに無造作に入れてある。そこから洗剤のみを取り出し、サムソンの洗濯機のしかるべき場所に絞り出す。
洗濯機に洗濯物を入れ、洗濯機の右手に取り付けられた投入口に10バーツ硬貨10枚を入れる。すると洗濯機はコントロールパネルのいくつかの場所を賑やかに光らせ、水も流れ始めた。人がすべきことは10バーツ硬貨10枚を投入するのみだった。これは楽だ。”Delay End”の文字のある脇の液晶には58の数字が出ているため、iPhoneに58分間のアラームを設定して部屋に戻る。
そのアラームが残り1分になったところで部屋を出て洗濯室へ向かう。洗濯機の”Delay End”には「1」の数字があった。洗濯室には広い窓があり、タイに入って4日目にしてようやく雨雲のない街が見晴らせた。洗濯機が電子音を発して止まる。次は隣の、今度は”Whirlpool”と社名のある乾燥機に洗い上がった洗濯物を入れる。10バーツ硬貨5枚を投入すると、そこには「25」の数字が出た。今度はiPhoneに25分間のアラームを設定して部屋に戻る。
洗濯は至極簡単に完了した。wifiが安定しない、シャワーから温水が出たのは2日目まで、工事によりスイミングプールが閉鎖されることを予約客に知らせてこないなど、このホテルは突っ込みどころは満載だが、ワットマンコンの駅から徒歩3分という利便性はとても魅力的だ。大通りとその周辺の食べ物屋の料金は高いものの、すこし歩けばバンコクの平均になる。よって気が向けば、僕はまたこのホテルを選ぶかも知れない。
さて時刻はいまだ9時30分。本を読む環境が欲しい。よって座り心地の良いソファを備えたカフェでもありはしないかと、セブンイレブンのトートバッグに本を入れて外へ出る。歩いたのはヤワラーの大通りの南側。
途中、ホテルの窓から見えていた、工事中のかなり大きなお寺の脇に出る。特に信心深いわけではないものの、門を入り、緑陰の下を進んで階段を上がる。無人の販売台に花と線香が置いてある。しかし蝋燭に火を着けるマッチは持ち合わせていないから、そのまま先へと進む。それをしたからといって何がどうなるわけでもないけれど、本尊らしい金色の仏像に手を合わせ、まるで体育館のように広い本堂を去る。立て札によればお寺の名前は”Wat Samphanthawong Saram Worawihan”とあって、これがタイ語になれば、更にわけが分からなくなるだろう。
炎天下を歩いても歩いても、そこには昔ながらのバンコクの街並み、そしてごくたまに、古い店を改装した画廊、古着屋、喫茶店が現れるものの「座り心地の良いソファ」はどこにも見つからない。そうするうちチャオプラヤ河畔に行き当たり、きびすを返す。意図して建物と建物のあいだを歩き続けるうち、今度は靴屋ばかりの並ぶ小路に出る。そうしてそこを抜ければ何と、初日の夜にオースワンを食べた食堂「笑笑酒楼」が間近にあった。
チェンライに滞在をしているときには、朝食をたっぷり食べれば昼食は不要と考えるほど腹は減らない。それは頭を使わないせいと考えていた。しかし今夏のバンコクでは、頭を使わないことはおなじでも、腹はなぜか減る。正午にはいまだかなり間のあるころにホテルを出て、ちかくの店で餡かけ麺を食べる。ホテルまではわざと、建物と建物のあいだの、昼なお暗い路地を辿って戻る。
正午を過ぎることにふたたび外を出て、おといからずっと通っているマッサージ屋で2時間の足マッサージを受ける。今日もまたその途中で眠ってしまって本はほとんど読めず。料金は600バーツ。悲鳴を上げる寸前という絶妙の強揉みをしてくれたオニーチャンは200バーツのチップ。
それにしても、プールサイドの寝椅子を与えられなければどれほど本が読めないか、ということが今回は良く分かった。しかし本は読みたい。ちかくのホテル「上海マンション」の入口は、夜はバンドの演奏もあるレストランになっている。外からの壁はなく開放的だが、天井からの冷気は歩道にまで及んでいる。ここに14時30分に出かけてマンゴースムージーを注文し、1時間30分ほど滞在をした。ライオネル・バーバー著「権力者と愚か者」は71ページまで進んだ。
さて17時もちかければ夕食、ということになる。ホテルはヤワラーの繁華街の真ん真ん中にあり、一般には美味い食べ物屋の集合体、ということになっている。ちかくにはピブグルマンの店も点在し、そのようなところは僕の見たところ、18時までは空いている。しかし数分ほども考えた末、きのうとおなじ店に出かけることとする。僕が第一に求めるのは、美味さではない。南の国らしい屋外の席での、本を読みながらラオカーオを飲みながらの、更には押しかける客に遠慮をしなくてもよい食事、である。
部屋には早くも18時に戻ってしまった。そしてすることは何もない。相変わらず冷たいシャワーを浴び、ナイトガウンを羽織って寝台に上がる。外はいまだ、明るい。表の通りからは、いまだ人々の声は上がってこない。ヤワラーの夜は、いまだ始まっていないのだ。
朝飯 “Hotel Royal Bnagkok”の朝のブッフェ其の一、其の二
昼飯 「如意」のミークローブラートナー
晩飯 “Aiem Pochana”のビーフンと魚貝類の炒め、ラオカーオ”BANGYIKHAN”(ソーダ割り)