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清閑 PERSONAL DIARY

2016.9.29 (木) チェンライ日記(1日目)

20160929f前々回2月のタイ行きでは、羽田で飛行機に乗り込むなりデパスとハルシオンを各1錠ずつ飲んだ。するとそれは、まるでボクシングの選手から受けたフックかアッパーのように効き、背もたれも倒さずアイマスクもしないまま眠ってしまった。無論、離陸をしたことも覚えていない。

「いくらかでも楽な姿勢で寝るべき」と今回は、まるで馬が食うほどの量をオフクロが遺した睡眠導入剤は、すこし遅らせて飲むこととした。

“BOEING 747-400″を機材とする”TG661″は、定刻に12分おくれて00:32に離陸をした。ここで先ほどの薬を、持ち込んだペットボトルのお茶で飲む。そしてベルト着用のサインが消えた頃合いを見計らって背もたれを倒し、眠る体勢に入る。

目を覚ますと、ふたつ前の席まで朝食を運ぶワゴンが来ていたから「これはいけねぇ」と即、化粧室に行って顔を洗う。席に着いて時計を見ると5時5分だった。目の前のディスプレイによれば、機は既にしてインドシナ半島の中央に近づいている。バンコクには、あと数十分で着くだろう。そそくさと朝食を済ませると、またまた化粧室に行って歯を磨く。

定刻より48分はやく、機は日本時間06:02、タイ時間04:02に、スワンナプーム空港に着陸をした。ここからの時間表記はタイ時間とする。

“minimum connecting time”という言葉を知ったのは、おととしのことだ。これは最低乗継時間と訳され、その長さは1時間15分と聞いた。羽田からチェンライへ飛ぶときの、バンコクでの乗り換え時間は3時間。かてて加えて日本からの便は大抵、予定よりも早く着くから、いくらスワンナプーム空港が広大とはいえ、当方はのんびりしたものである。”GREGORY”のデイパックを背負って、ただ”Transfer to Chiangmai,Chiangrai,Phuket,Krabi,Samui,Hatyai”と案内される方へと歩いて行く。移動距離が1キロを超えても、いわゆる「動く歩道」があるからどうということはない。

パスポートコントロール、また、そのすぐそばにあるタイスマイル航空のカウンターは、5時にならないと開かない。正体不明の男が横になって眠るベンチに腰かけ待つうち僕も眠ってしまい、気がつくと5時20分になっていた。ひとりで旅をするときの大敵は、この居眠りである。寝ているあいだに乗るべき飛行機が飛んでしまうということも、あり得ないことではないのだ。

タイスマイル航空のカウンターにパスポートとeチケットを出す。今朝のオネーサンには「バゲージクレームのタグをお見せください」は当然としても「Address in Thailandにお書きくださっているのはホテルの名前ですか」などと、まるで入国審査官がするような質問を受けた。プラユットによる良く言えば几帳面な統治の影響が、こんなところにまで及んでいるのかどうかは知らない

05:40 入国
05:48 搭乗ゲートA4に着く。
05:50 ようよう夜が明けてくる
07:05 きのうの日記を書き終える。
07:27 搭乗開始

“AIRBUS A321-200″を機材とする”TG2131″は、定刻に5分おくれて07:55に離陸をした。上空には雲が目立った。出発前に調べた天気予報は、タイの北部を雨続きとしていた。しかし機窓の下に見えるチェンライは晴れていた。着陸は定刻より15分はやい09:00だった。

田舎の小さな空港ということ、僕の荷物は”Priority”の扱いを受けていること、このふたつの条件によりスーツケースは着陸からわずか15分後には受け取ることができた。そうして空港ロビーにあるタクシーのカウンターに近づき、オネーサンに声をかける

「ドゥシットまで」
「ただいまクルマが出払っていますので、30分ほどお待ちいただけますか」
「クルマが来たら声をかけてくれるのかな」
「はい」

というやり取りがあって、目の前のコーヒーショップで飲み物を買いながら、運転手に手渡すチップのための小銭を作ろうとしているところに後ろから声をかけられる。運転手のうちのひとりがちょうど戻ってきたのだ。早くも彼は僕のスーツケースを曳いて空港の出口を目指している。僕も足早にその後を追う。

日本から持って出た現地通貨は20,918バーツ。チップのための小銭を得ることはできなかった。空港からホテルまでの6、7キロの距離に対して100バーツのチップはいかにも多すぎるけれど仕方がない。ホテルのポーチに続く坂をタクシーが登り切ると、すかさずベルボーイが近づいてくる。高きから低きに水の流れるような、何の滞りもない旅である。

フロントの、タヌキ顔のオネーサンも、またナマズ顔のオネーサンも、いつもと変わらない笑顔を僕に向ける。誤解の無いよう付け加えれば、タヌキ顔もナマズ顔も、僕においては褒め言葉である。そしてタヌキ顔の方に頼んで100バーツ札を細かくしてもらう。

ロビー階にいて、客がちかづくたびエレベータの開ボタンを押す係のオジサンには20バーツを渡す。部屋まで荷物を運んでくれたベルボーイには50バーツを渡す。深夜00:20に羽田を発って、2時間の時差があるとはいえ次の朝にはタイの最北部で国境の山々を眺めている。いつものことながら、まるで夢を見ている気分だ

机上に並べられた案内のたぐいは、目につかない一個所にまとめる。ベッドに6個も積み上げられた枕は、そのうちの5個をソファの上に移す。そのように部屋を自分ごのみに整えてからシャワーを浴びる。そして服はそのまま、”trippen”の革靴を”KEEN”のサンダルに履き替え外へ出る。

“Dusit Island Resort”はコック川の中州に建つ古いホテルだ。チェンライでは街の中心にあるブティックホテル”Le Patta”も綺麗で便利で好きだ。両者を天秤にかければ、しかし街まで遠い不便さを差し引いても、景色の良さと朝食の豊かさを以て、どうしても前者に軍配が上がる。

ホテルのロビーを出てから門衛のいる橋の手前までだけで、既にして数百メートルの距離がある。ホテイアオイの浮く川を渡る。不思議な声で鳴く鈴虫のいる崖の下の道を往く。そこから先はいくつかの道があるけれど、今朝は”OVERBROOK HOSPITAL”を脇に見て右に折れ、また左に折れする。

スーパーマーケットと女性衣料品のアーケードがひとつになった建物には冷房が効いているから、買い物はしなくてもこの中を歩く。そこを抜けると市場に面した旧時計塔の交差点に出る。チェンライは、田舎とはいえ商売ごとに街区を形成する一角をいくつも持つ商都でもある。その街区のうちの電気街を抜け、更に左や右に折れるうち、けばけばしく金色に塗られた新しい時計塔が見えてくる

この時計塔の交差点からパフォンヨーティン通りを東へ歩くと間もなく、ナイトバザールに続く交差点が目に入る。その交差点を右に折れても通りの名前はやはりパフォンヨーティン通りなのだから、何やらややこしい。

ここで腕の時計を見ると、ロビーを出てから25分が経っていた。ホテルから街までは、やはり2キロ弱はありそうだ。街に入ればあれこれの用事のため更に動く。ホテルと街のあいだを日に2往復することもある。つまり”Dusit Island Resort”に泊まれば1日に10キロくらいは歩く勘定になる。大した運動である。

タイは日本ほど酒とタバコに寛容でない。酒は日中は11時から14時までの3時間しか買うことができない。パフォンヨーティン通りの西側の歩道に”JOHNNIE WALKER”の看板を提げた酒屋に入り、昼食中のオバチャンには申し訳なかったけれど、ラオカーオ2本を確保する

そのまま通りを南下し、”LONELY PLANET”では隨分と褒められている、しかし僕は食事は一度も摂ったことのない料理屋ムアントーンとおなじ交差点にあって、何年か前に地元の人から薦められたマッサージ屋”PAI”でタイマッサージを2時間、受ける。今日の担当はジェップさん。その丁寧な仕事ぶりには大いに驚いた。「ジェップ」と僕が発音をしても通じるわけはない。次の機会に備えて彼女にはメモ帳にタイ語でその名を書いてもらった。

ジェットヨット通りの麺屋「カオソーイポーチャイ」で鶏のカオソイを昼食としたのは14時。そして午前に来た道を逆に辿ってホテルに戻る

15時から18時すぎまではプールサイドの寝椅子で本を読む。あるいはうたた寝をする。本のページから視線を外せば高い椰子の木があり、その向こうには青い空に入道雲が真白く立ちのぼっている。僕にとっての天国である。

夜はホテルのシャトルバスで街に出る。ナイトバザールではいつものとおり、観光客向けの、チーク材を多用した高級な区域ではなく、鉄製の黄色い机と椅子を並べた庶民向けの広場へ行く。そしてこの広場を囲む、それぞれ間口1間、奥行き2間半ほどの食べ物を売る店の中に、昨年は何度も注文をした優しそうなおばちゃんの姿を探したけれど見つからない。よってそのおばちゃんの店とおなじあたりの若い人の店からチムジュムを取り寄せる。そしてそれを肴にラオカーオを飲む。ただただ、気分は楽である


朝飯 “TG661″の機内食“TG2130″の機内スナック
昼飯 「カオソーイポーチャイ」のカオソーイガイ
晩飯 ナイトバザールのフードコートのチムジュム、揚げ物の盛り合わせ、ラオカーオ”YEOWNGERN”(オンザロックス)


  

上澤卓哉

上澤梅太郎商店・上澤卓哉

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